飽きた、が、婚約破棄の理由ですか。それはまた随分勝手ですね。そんなのまるで子どもではないですか。
ある晴れた日。
その日は何ということのない平凡そのものな日だったのだが。
「あ、そうだ。婚約、破棄するから」
婚約者ルーベルクールの家へちょっとした用事で行ったところ、本人からそんな風に言われてしまった。
そういう話をしに行ったわけではないし、呼ばれたわけでもない。本当に、日常の延長のような、細やかな用事のために訪ねた――だからあまりにもまさかの展開で、私は何が何だか分からなくなってしまった。
「どう、して……」
「飽きてさ」
「え……飽き……?」
「そーいうこと」
「本気、なの、ですか……?」
「あったりまえだろ、本気じゃないこととかわざわざ言わねえって」
心の空は暗雲に覆われる。
「ま、そういうことなんで。もう縁は切るんで、いいな?」
「待って! ……ください。あの、色々いきなり過ぎて、ちょっと……」
「しつけーよ」
「あの、話をさせてくださ――」
「しつけえ! 消えろ! 聞いてやってたらそれかよ! ふざけんな!」
その時のルーベルクールは見たことがないくらい恐ろしい顔をしていた――まるで悪魔、まるで鬼、だ。
「出てけ!!」
◆
数日後、ルーベルクールが亡くなったと知った。
何でも、家に岩が転がり入ってきたそうで。
それに巻き込まれて。
破壊された家の一部である瓦礫の下に入ってしまって落命したらしい。
◆
「貴女のような人と結ばれることができるなんて、夢のようだよ」
「いえいえ、そんな」
あれから数年、私は、ドレス販売で富を築いた青年と結ばれることとなった。
「こちらこそ、貴方のことは好きなので嬉しいです」
「ええー。照れちゃうな」
「本当ですよ。好きですし、それに、貴方のことは尊敬しています」
「はは、こりゃちょっと照れるな……でも、ありがとう」
私は自由に生きる。
己の道は己で決めて、突き進むのだ。
「これからよろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
もう何にも縛られはしない。
◆終わり◆




