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婚約破棄、そして雨。
雨って、空の上の神様が泣いているみたい。
遥か昔そんな話をしたことがあった。
誰とかさえ忘れてしまったけれど。
そして今、私は、切り株に腰掛けながら空を見上げては同じことを思っている。
降り注ぐ雨粒は冷たい。それが肌に触れるたび跳ねてしまいそうで、けれど、もう数分こうしているのでさすがに慣れてきた。今はもう濡れても跳ねてしまうことはない。
雨降りの中こうして一人佇むのはなぜか?
私は今日婚約破棄されたのだ。
こちらに非はなかった。
それは彼も認めている。
彼が他の女性に惚れた、それが婚約破棄の理由。
そのことを告げられてから、ずっとこんな感じ。私の胸は防衛のためかありとあらゆる感覚を麻痺させた。だから何も感じない。雨に濡れてもなお、心の中は静寂。
「もっと一緒に、いたかったな……」
時を巻き返せるなら、彼をもう一度取り戻したい。
でもそれは叶わない願いだ。
◆終わり◆