結婚式当日、婚約者が婚約の破棄を告げてきまして。~卑怯な二人、くっついて幸せになれるなんて思わないでください~
結婚式当日。
「リーシア、お前とは結婚しない」
婚約者オルズがいきなりそんなことを言ってきた。
「え……でも、今日、結婚式で……」
「やめにする」
「それはさすがにまずくないですか……?」
「仕方ないだろ、愛せないんだから。永遠なんて誓えるかよ」
「でも、ならどうして、前もって言ってくれなかったのですか……?」
そこへ現れたのは、緑髪の知らない女性。
彼女の足取りは軽い。
とても楽しそうな顔をしている。
「おーるずくんっ! 話はできたぁ?」
「ああ、今伝えたところだ」
嫌な予感が……。
「あ! 貴女がオルズくんの婚約者さん?」
「はい」
「やぁー、初めましてっ! いつもオルズくんがお世話になってます!」
「えと、あの、貴女は?」
「あたし? あたしはぁ、今日からオルズくんの妻となるレイシーですっ。婚約者さん、これまでお疲れさま!」
何だろう?
あまり良い気はしない。
それに嫌な雰囲気しかない。
どうしてだろう?
目の前の彼女を良い人だとはどうしても思えない。
こんな感覚はこれまで生きてきて初めてだ。
「えっと、あの、意味が」
「だーかーらー! オルズくんが貴女との婚約を破棄するのはあたしと結婚するためなんですっ!」
ちらりと見ると少し気まずそうな顔をするオルズ。
そういうことか。
納得した。
ようやく意味が分かった。
理解はできないが。
「まぁそういうことだ、リーシア、さようなら」
「オルズさん……酷いですね」
「何とでも言えばいい。俺は本心に従うだけだ」
痛くて。
悲しくて。
辛くて。
私はドレスを脱ぎ捨てて走り去った。
「行っちゃったぁ」
「いいんだよ、あんな女」
「本当に良かったの? オルズくぅ~ん」
「いいんだ」
「そ? ま、あたしのほうが可愛いもんね!」
◆
あの後オルズは、私との結婚式は中止し、急遽レイシーとの結婚式に変えることにしたみたいだ。
だがそんな勝手が受け入れられるはずもなかった。
そして、我が父の逆鱗に触れてしまった彼とレイシーは、父が雇った裏仕事の人間によって拘束された。
で、父から拷問のようなお叱りを受けることになった。
オルズも、レイシーも、最後には「殺してくれ」というようなことを泣きながら言うようになっていたようだが――それでも父は二人を殺しはせず、ただひらすらに虐め続けた。
結局二人は暗い地下で最終的に息絶えたようだ。
もっとも、私はその亡骸を目にしていないけれど。
このことは世には出なかった。
父の権力が大きかったから。
情報は流れず、二人の存在は闇に溶けて消えた。
◆
あれから三年が経ち、私の乱れていた心も徐々に落ち着きを取り戻してきている。
あの時はとても辛かった。
毎日地獄みたいで。
怒りと悔しさと絶望感に常に苛まれていた。
けれども今はもうそんな黒いものだけを抱えて生きているわけではない。
美しい澄んだ空。
庭の草花。
季節を告げる風の匂い。
そういったものを楽しみ生きている。
私に対して酷い仕打ちをしたあの二人は、もう二度と、何も感じることができないのだ。
けれども私は感じられる。
それだけで良かったと思える。
◆終わり◆




