婚約破棄され彼の家を出ると雨が降ってきました。仕方がないので雨宿りします。しかしそこで意外な出会いがあり……?
雨宿り中、一人の男性と出会う。
「お嬢さん、貴女も雨宿りですか?」
「はい」
「災難でしたね、急に降られるなんて」
「……はい」
今は。
降られる、も、振られる、に聞こえてしまって。
過敏に反応しそうになる。
――そう、私は、先ほど婚約者だったアミウから婚約の破棄を告げられた。
さっさと出ていけ、そう圧をかけられて。それで、走って彼の家から去ろうとしたのだが、その最中に雨に降られた。そしてここで雨宿りしていたのだ、大雨だったから。すると少しして彼もここへ雨宿りしに来て。
そして今に至っている。
「お兄さんも雨宿り……ですよね?」
「そうですね」
「急な雨は困りますね」
「はは、本当に」
とても気まずい。
けれど一人よりかは良かった。
孤独は辛い。
こういう時だから、なおさら。
「お嬢さん、暗い顔をなさっていますね」
「……ああ、はい、まぁ」
「何かあったのですか?」
「……お話するほどのことでは」
「話したくないこと、ですか?」
「まぁ……聞いても面白くないと思いますよ、多分」
一人でじっとしているとアミウのことばかり思い出してしまう。
それも、彼との楽しかった記憶を。
どうあがいても思い出してしまうのだ。
それはとても辛いことだ。
「少し興味があります。雨がやむまでだけでも……」
「話しても良いですか?」
「え」
「あっ……あの、すみません、一応言ってくださっていただけ、ですよね。ごめんなさい、勘違いして……」
雨はまだやまない。
「違います!」
「え?」
「お嬢さんの話なら聞きたいですよ」
「そう……ですか?」
「はい!」
それから私はアミウとのことを目の前にいる男性に話した。
「――そう、でしたか」
彼は少し気まずそうにしたけれど。
「それは、お辛いですね。しかも雨に降られるなんて、さらに辛いですよねきっと」
それでも、彼なりに受け止めてくれた。
聞いてもらえて少し心が軽くなった。
不思議なことだ。
吐き出せてすっきりしたということだろうか。
「あの、もしよければなんですけど」
彼は切り出す。
「僕と結婚しません?」
私は言葉を失う。
◆
あの雨降りから二年という月日が過ぎた。
私は今、あの日に出会った彼と結ばれ、幸福の中で生きている。
彼との日々は穏やかそのもの。
強い刺激はないけれど。
そんなことは気にならないくらいの優しい平穏がここにはある。
この海にいつまでも浸っていたい――そう思うくらいの、砂糖菓子みたいな幸福がここにはあるのだ。
ちなみにアミウは、あの後裏社会を牛耳っているおじさんの二番目の愛人に惚れてしまいその女性に手を出し、おじさんの逆鱗に触れてしまったようで。ある晩、おじさんの指示によってやって来た複数のいかつい男に襲われ、刃物で胸をひと突きされて死亡してしまったそうだ。そして、亡骸には恥ずかしい落書きを施され、そのまま十日くらい屋外で干されたらしい。
◆終わり◆




