もう好きとは思えないようになってしまった、とのことで、婚約破棄されました。ならば私は私で生きてゆきます。さようなら。
「お主とはもうやっていけぬ」
「え……」
「よって、婚約は破棄とさせていただく」
東国の出の資産家ヤマティヌスから突然告げられた。
心当たりがなさ過ぎて。
どう返せば良いものか分からない。
だって本当に心当たりがないのだ。
悪いことをした記憶がないし、揉めたこともない――だから正直何が何だか。
「あの……あまりに、突然で。戸惑っています」
「ならきちんと説明しよう。我はお主をもう好きとは思えないようになってしまったのだ。いいな? だからもう縁を切るのだ」
ヤマティヌスの口から出る言葉は驚くくらい冷ややかで。
これまでも彼はそれほど優しい人ではなかった。
けれどここまで冷ややかな目をし言葉を投げてくるというのは珍しいことだ。
「……そう、ですか」
喉が震える。
「はっきり言ったぞ。ではな。去ってくれな」
「……はい」
戻れるなら戻りたい。
そう思いもする。
けれどもそれはきっと無理な願いなのだろう――彼の心はもう変わりきってしまったから。
「分かり……ました」
◆
あれから数年、私は、ケーキ屋で働いていたところ資産家の青年に見初められて彼と結婚した。
こんな未来は想像していなかった。
けれどもこれはこれで良い道だったとは思う。
一方その頃、ヤマティヌスは私ではない女性と結婚しようとするも相手に拒まれてしまい、そのことに腹を立てて女性を殴ってしまったそう。で、その件によって拘束されてしまい、今は罪人ばかりが暮らす牢の中でほぼ強制的に労働させられているそうだ。
ヤマティヌスは当分世には出てこられない。
もちろん平凡な結婚をすることすら叶わず。
その身に自由など与えられはしないのだ。
私はあの時ヤマティヌスに切り捨てられてしまったけれど、結果的には私の方が幸せになれた――いや、もちろん、どんな人生が幸せかなんて個人的な感覚によるけれど。
ただ、私は、迷いなくそう思っている。
だって、誰だって嫌だろう?
強制労働させられる人生なんて。
◆終わり◆




