婚約者の姉の指示で殺められました。けれど、女神の計らいで舞い戻り――復讐の果てに、彼とまた共に歩めることとなったのです。
「あの女、やって」
私は知らなかった。
「承知いたしました、王女」
婚約者のルッツ王子の姉が私を嫌っていることなんて。
その人が私を殺めたいほど嫌がっていたことなんて。
だから分からなかった――送り込まれた刺客に殺められても、それでも、何が起こったのか分からないままで――そのままあの世へ旅立った。
◆
しかし死後、出会った女神から、私は聞くこととなる。
私がどうして襲われたのか。
そしてどうして殺められたのかを。
「まさか……ルッツのお姉様の指示だったなんて」
女神は言った。すべてを知った状態で舞い戻り、復讐を果たし、幸福に生きよと。彼女が言うには、それをしなければ死にきれないらしい。今のままでは安らかには眠れないのだそうだ。
そして私は帰ることとなる。
あの世界に。
一度は死んだ、あの場所へ。
◆
「貴女は――とても、とても美しい人だ」
私は蘇った。
そしてルッツ王子の前に現れた。
彼はすぐに私に惚れ込んでくれた。
「ああ……嘘みたいだ」
彼は涙を流す。
彼は私が私であるとは知らない。けれどもその涙は確かに私のために流されているものだ。彼は、ルッツ王子は、私を確かに愛してくれていたのだ。彼の心を、本当の想いを、こうして知ることができて良かった。
「嘘みたい、とは?」
「かつて愛している婚約者がいたんだ、その人が貴女にとても似ていて……ごめん、こんなことを言って」
「その方は……」
「謎の死を遂げてしまったよ。もう会えないんだ……」
そう言って泣く彼を見ていたら、やはりこのまま終われない、と思ってきた。
彼もまた被害者なのだ。
真実は知らないのだろうが、彼は、姉の悪質で勝手な選択によって愛する人を失った。
「それは……とても、辛かったでしょうね」
「ごめん……こんな、未練たらたらで……」
「いえ。その女性は愛されて幸せだったと思います」
「でも……僕と一緒にいなければ死なずに済んだかも、って……」
「そんなはずありません」
そう、私は、ルッツを愛していた。
否、今でも彼のことは愛しているし大切に想っている。
「その女性は、貴方に出会えて良かったと思っています」
言いきれるのだ。
だって私だから。
もう肉体的には昔には戻れないけれど、心と記憶は確かなものだ。
「――信じてください、彼女の想いと愛を」
その後私は活動を開始。
いろんな人脈と方法で調査を行い。
やがて尻尾を掴むことに成功。
私を殺すよう指示したのは、やはり、ルッツの姉だった。
女神の言葉に偽りはなかった。
それから数ヶ月、私は彼女の行いを世に出した。
ルッツの姉は世間から批判を浴び。
国王は彼女との縁切りを強行し、さらに、城からも追放した。
ルッツの姉はすべてを失うこととなった。
真実を知ったルッツは怒ることさえできず泣いていたけれど、私に怒りを向けるようなことは一切しなかったし、むしろ感謝の意を示してくれた。
「ありがとう、彼女の死の真相を教えてくれて」
「ルッツ……」
「え?」
「あっ」
言ってから後悔。
もうかつての私ではないのに、彼を呼び捨てにするなんて。
どうかしている。
「す、すみません! 無礼なことを!」
「い、いや、そうじゃないんだ……違うんだ、その……」
「何でしょうか」
「貴女はとても似ている! 愛していた、かつての婚約者に!」
……ば、ばれてる!?
「まるで生き写しみたいだ……ルッツ、って、その呼び方も……ああ、どうしてだろう……貴女といると死んだ彼女と一緒にいた頃みたいな気持ちになる……とても幸せな、幸福な、そんな気持ち……」
その後私はプロポーズされ、ルッツと結婚した。
彼は知らない。
私がかつて殺された女性と同一人物だということを。
それでも感じるところはあるようで。
彼はいつも、現在の私の中に、過去の私の姿を見ている。
こうして私はルッツと幸せに生きた。
◆終わり◆




