彼の優しい言葉は偽りのものでした、私は遊ばれていたのかもしれません。~真実を知ったならもう迷いません~
「君と婚約したい、そして、共に未来を歩みたいんだ」
あの時は嬉しかった。
学園の同級生であるフリーズニヒから婚約を望まれて。
「私で良いの?」
「もちろん、君だから共に生きてみたいんだ」
「……正直信じられないわ」
「いいよ、今は信じてもらえなくても。信じてもらえるまで言い続けるだけだからさ」
私も彼へ悪い印象は抱いていなかった。
だから嬉しさもあった。
どうしても彼の言葉を真っ直ぐには受け入れられなかったけれど。
「君と婚約したい」
「……本気、なのね」
「当然だろう?」
「……分からないの」
心は徐々に溶かされて。
「婚約したいんだ。その美しい容姿と心に惹かれている」
「ありがとう……私をそんな風に褒めてくれたのは貴方が初めてよ」
「そんな、まさか」
「そうよ。誰も私を見はしないんだもの」
「僕はずっと君を見ている! これまでも、これからも!」
フリーズニヒの真っ直ぐさに胸を射られて。
彼となら明るい未来を見つめられるのでは、などと思ってしまって。
「……分かった、私、その話受けるわ」
「本当かい!?」
「ええ」
「やった! ありがとう、嬉しいよ」
「婚約しましょう」
「よーっし!」
「これからよろしくね、フリーズニヒ」
「こちらこそ! よろしく!」
この時は幸せになれると思っていた。彼の想いが強いものだと思っていたからだ。いや、実際、この時の彼はまだ私への想いを抱えていた。
だが、長くは続かず。
婚約が成立して間もなく、彼は徐々に私を見なくなっていった。
そしてある時聞いてしまう。
街中で。
彼が友人に笑い話のように私のことを話しているのを。
「あの女さぁ、うけるんだよな~。ちょっと頼み込んだらすぐころっと受け入れて婚約してさ~。で、放置してても他の男のところへも行かねぇでじ~っとしてんだよ笑けるよな」
フリーズニヒは楽しそうに男性と喋っている。
相手の男性は少し気まずそうな顔をしているけれど。
「いいのか、そんなことして」
「いいんだよ! あんなやつ、どうでも」
「さ、さすがに酷くないか?」
「酷い? 笑えるな! ああいう馬鹿な女はよ、放置しておけばいいんだ。ど~せ、他の男のところへ行く勇気だってないんだよ」
取り敢えず常備している小型録音機で録音しておいた。
「……そう、か」
それから数日、私は親と共にフリーズニヒのところへ行く。
そして無礼な音声をちらつかせつつ婚約の破棄を告げる。
「はぁ!? 勘違いだろ!? 僕はこんなこと言っていない!!」
「姿も見ていたので間違いないと思います」
「人違いだろ!! ふざけんな!!」
その時、背後から、あの時の男性――フリーズニヒの友人と思われる人が現れた。
「人違いじゃない」
彼はそう言う。
「その言葉を発していたのは他の誰でもないフリーズニヒだ」
彼の発言によって、フリーズニヒの主張が嘘でしかないと証明できた。
「ちょっとあれは酷いなと思ってた」
「お、お前! ふざけんな! 言いふらす気か!?」
「べつに言いふらしてはいない」
「裏切り者!! くたばれ!! 死ね、死ねぇ!!」
暴れ出すフリーズニヒを、私たちは、地域の警備隊へ突き出した。
その後私はフリーズニヒと正式に縁を切り、実家で穏やかに暮らすようになった。
あの日言われた言葉、それらはすべて霧と化してしまった。
けれども今はすべてが糧になると思っている。
だから何も恐れはしないし、私はただ未来へ行くためだけに生きる。
◆
あれから数年が経ち、私は祝福される結婚をすることができたのだが、一方でフリーズニヒはあの後酒に溺れ暴力行為を繰り返してしまって最終的には改善の余地なしとして処刑されてしまったそうだ。
フリーズニヒの人生はもう終わったのである。
それでも私の道は続く。
フリーズニヒの人生と私の人生は連動してはいない。
◆終わり◆




