それは愛? それとも? ……よく分かりませんが、いつまでも付き合う気はありません。私は自由になりたいのです。
婚約者レーゼルンは少々悪質だった。
彼は私を愛しているようなのだけれど、その行いが少々過剰なのだ――そう、彼は私を自室に閉じ込めている。
「君は僕の婚約者、僕の所有物だ。だから、僕に、決して抵抗してはならないよ。いいね?」
婚約した日の次の日、彼に呼び出されて彼の家へ行った。
すると笑顔でそう言われて。
そのまま彼の部屋に閉じ込められた。
彼の部屋は広い。そのため、最低限の生活をする環境は整っており、人としての生活ができないということはない。ここにずっといても死にはしないだろう、彼も食べ物や飲み物は与えてくれるし。
だが、それでも、ここに居続けなくてはならないのは嫌だ。
親に会いたい。
外の空気を吸いたい。
贅沢かもしれないけれど、そう思ってしまう。
「これ、今日の昼食ね」
「ありがとうございます。……あの」
「何だい?」
「一日だけで構いません、実家へ……」
「駄目だ!!」
でも叶わない。
少しの外出すら許されない。
「浮気するんだろう!?」
彼は浮気されることに怯えている。
私を離さないのもそれだ。
彼は私を信じられないらしい――べつにそういったことをしたことは一度もないのだが。
「しません、そんなこと……」
「ならここにいればいい」
「では貴方も一緒で構わないので、どうか……」
「しつこいな!! 外には出さない!!」
「貴方も一緒なら、浮気ではないと分かるでしょう……?」
「心は浮気しているかもしれないだろう!!」
彼は驚くくらい疑り深い。
「ええっ……」
「と! に! か! く! 君はここにいないと駄目だ。必要な物は僕に言う、前に決めただろう?」
「……はい」
「そうだ、大人しくしていればいい」
◆
レーゼルンが留守の日がやって来た。
半年ぶりくらいだろうか。
彼がいない日、それはかなり久々だ。
もちろん、この部屋はしっかりと施錠されている。外どころか、他の部屋へ行くことさえできない。扉はもちろんのこと、すべての窓もしっかり閉まっていて、簡単には開けられない状態だ。
でも――抜け出すなら今日しかない。
彼がいる日にここから出るというのはさすがに無理だろう。
発見されて怒られるのが関の山だろう。
ならば今日、彼が帰ってくるより早く、ここを立ち去る。
「よし」
私は室内の大きなテーブルを両手で掴んで持ち上げる。
「――はっ!」
そして。
それで窓を叩く。
強化された窓だ、一度では割ることはできない。
でも何度もやればきっと……。
「せい! せい! とりゃ! はい! せー……いっ! はぁ! とりゃ! はい! はいっ! せりゃ! ほい! ほぉーっい! せい! せいっ! はい! はい! どっせい! ごらぁっ! ほいっ!」
テーブルで叩き続けること数十分、ようやく窓を割ることができた。
額に滲む汗を手の甲で拭う。
「……さよなら」
私は窓から脱出。
長くいた部屋に別れを告げた。
その後実家へ駆け込んだ私は、両親にこれまでのことをすべて話した。
両親はかなり驚いていた。
けれど、レーゼルンから護る、と言ってくれた。
また、レーゼルンとの婚約を破棄する手続きも、両親が行ってくれることとなった。
翌日早速レーゼルンが実家へ殴り込んできたけれど、両親は私を隠してくれた。おかげでレーゼルンのところへ戻らされることにはならなかった。彼はそれからも毎日ここへ来て「彼女を返せ」とか何とか喚いていて――そのうちに近所の人が地域の警備隊に通報、そして彼は拘束された。
あれは愛だったのか?
それとも別の?
愛のようで愛ではないもの?
所有していたいという気持ち?
よく分からなかったけれど――それでもまた穏やかな朝は来る。
◆
数年後の春、私は、領地持ちの家の子息である青年と結婚した。
彼は穏やかな人だ。
いつかの誰かさんみたいに私を部屋に閉じ込めたりしない。
おかげで毎日楽しく暮らせている。
ちなみに、かつて私を閉じ込めていたあの人はというと、牢に入れられている間の態度が悪かったために現場の判断で特例で処刑されたそうだ。
◆終わり◆




