学園時代の知り合いだった彼と婚約した私でしたが、裏で他の女と仲良くされたので婚約破棄することにしました。
私にはオレットという婚約者がいる。
彼は学園時代の知り合いだ。入学までは特に縁はなかったのだが、たまたま同学年だったために関わる機会があり、とある学年パーティーで顔を合わせて以来言葉を交わすようになった。とはいえそこまで親しくはなかったし、たまに挨拶する程度の関係だった。
しかし、二年の秋、彼が私にやたらと近づいてくるようになって。それからというもの、彼は私を執拗に追いかけまわしてきた。しかも、寄ってくるたびに「好きだよ」とか「一緒にいたい」とか言ってくるのだ。こちらは流しているにもかかわらず、そういった好意を示すような言葉をやたらと発してくるのである。
で、その結果、私は卒業と同時に彼と婚約することとなった。
正直自分にはそんな気はなかったのだが。
親がほぼ勝手に決めたのである。
私には意見を言う権利はなかった。
こうして私はオレットと婚約者同士になる。
それからしばらくの間は定期的に会っては喋ったり少し出掛けたりしていた。一緒にいるとそこそこ楽しくなって、こちらも段々嫌でなくなり、気づけば良き友のようになっていっていて。いつしか私は、彼といると楽しく過ごせる、と思えるようになっていた。
楽しみだった。
彼と生きてゆくことが。
協力して生きてゆこう、そう思っていた。
だが。
彼は陰で他の女性と仲良くなっていた。
私がいるのに。
彼は私に隠れて女性リリアンと関わっていたのだ。
しかも、かなり濃厚な関わりにまで至っていた。
許せない。
許さない。
私は終わりを迎えることを躊躇わなかった。
「陰でこそこそそんなことをしているとは思わなかったわ」
「……ごめん」
彼は否定はしなかった。
リリアンと仲良くしていたことを認めた。
「残念に思うわ」
「で、でも! 愛しているのは君だけだよ! 彼女とはただの友達で」
「ただの友達とそういうことをするの?」
「それは――君はさせてくれないよね、だから別の人と楽しくしようと思ったんだ。心は変わっていないからいいかな、って……」
心は変わっていない?
理解できない。
「婚約、破棄するわ。貴方とはもう縁を切る。貴方はリリアンのところへ行けばいいわ――さようなら、オレット」
終わらせてしまった――。
でも後悔はない。
これは私が選んだ道だから。
◆
数年後、私は、参加したお茶会にて出会った青年と結婚した。
ちなみに彼もまた学園時代知り合いだった人。
当時はそういう目では見ていなかったけれど、再会してから急激に距離が近くなり、結婚することになったのだ。
私たちは共に歩き始めた。
夫婦として。
生涯の友として。
「まさか、夫婦になるなんてな」
「ええそうね」
「思った?」
「いいえ。そんなこと、考えてもみなかったわ」
彼と歩む人生。
想像できなかった。
でも、今、私は確かに彼と共に在る。
「だよな。っていうかさ、オレットにいっつも追い掛け回されてたよな」
「そうそう、あのまま婚約までいったの」
「でも浮気したんだろ?」
「そうよ。リリアンとかいう人とね」
ちなみに――オレットは今はもうこの世に生きていない。
聞いた話によれば、女性と関わりを持ち過ぎていたために不治の病気をもらってしまったそうだ。
その病によって、苦しみながら死に至ったらしい。
その不治の病についてはあまり詳しくない。
でも最後のほうはかなり酷い状態だったそうだから恐ろしい。
健康だった成人男性が数年で死に至るなんて……。
「そっか……辛かったな、それは」
「そうね、でも、もういいの」
「そうなのか?」
「だって、彼と離れたからこそあなたにまた出会えたんだもの」
「はは……そりゃ照れるな」
とはいえ、もう彼のことを気にしようとは思わない。
すべて過ぎ去ったこと。
もうどうでもいい。
私は今の夫との時間を大切に大切に抱き締めて生きてゆくのだ。
「愛しているから」
「え。何急に。照れるって」
「あなたのことが好きよ」
「……あ、ありがとうな。って、くぅーっ!! こりゃ痺れるが照れるぅ!!」
◆終わり◆




