婚約者がある日突然婚約破棄を告げてきました。でも良いのですか? 婚約時に作った契約書には貴方に不利な条件が盛り込まれていますよ?
「お前との婚約、破棄とする」
ある日突然婚約者エリスレッドはそんなことを告げてきた。
ありふれた快晴の日だった。
婚約の際に作った契約書。
そこには婚約破棄した場合エリスレッド側が金を支払うということになっている。
また、私の家が彼の家へ出す予定だった援助も、婚約破棄となった場合にはなしになると書かれている。
それでも婚約破棄するというのだろうか?
不利な条件なのに?
「本気、なのですか?」
「ああもちろん」
「契約書の件はご存知ですよね……?」
「いいよあんなの。だって俺、運命の人に出会ったからさ! 出会ってしまったらもう仕方ないってものだよ!」
どうやら彼はあまり気にしていないようだ。
けれどもあの書類に書かれていることは絶対に守られること。
どんな理由があったとしても守らなくてはならないことだ。
それに、エリスレッドがその手でサインしているのだから、なおさら。
「だから、何を言われても、俺は婚約破棄する!」
「……そうですか、分かりました」
「俺は真実の愛を守るんだ! 絶対に! 何があっても!」
彼の決意は固いようだった。
「そうですか、では、さようなら。手続きは後日」
こうして私とエリスレッドの婚約は破棄となり――彼には契約を破った償いの金をこちらへ払わなくてはならなくなった。
その件でエリスレッドは親とかなり揉めたようだが、契約書にサインしてしまっているから今さら知らなかったふりはできないし逃れることなどできず、少し時間はかかったものの払ってもらうことができた。
ただ、それによってエリスレッドは親から勘当を言いわたされ、彼は親せきらとも無関係ということになったようだ。
それでも彼は愛を選んだ。
仲良しになっている女性と勝手に婚約する。
が、その関係も長くはもたず。
エリスレッドの所持金が減ってくると女性は彼に冷ややかに接するようになっていったそうで、そんな中エリスレッドがプロポーズすると女性は「貧しい人とは無理よ、こちらに益がないもの」と言って断ったうえ心ない言葉を投げつけたそう。
それによって傷ついたエリスレッドは、生きる意味を見出せなくなり、翌日森に入って自ら死を選んだらしい。
――あれから数年、私は結婚した。
夫となったのは、大金持ちである伯父の知り合いの男性だ。
彼もまた資産家の息子である。
けれども、裕福なのに性格は良く、穏やかな人で一緒にいて心地よい。
お金持ちでも善人はいるんだなぁ、と、彼と出会って一つ学んだ。
◆終わり◆




