ある朝気がつくと異世界で暮らす令嬢になっていました!? ~しかも早速婚約破棄されました~
現代のとある国で普通に暮らしていた私だったのだが、ある朝気がつくと異世界に転生していた。
これは転生と言えるのか? 定かではないけれど。ただ、私ではない別人になっていたので、一応転生したと言っておくことにしよう。というのも、私はエクセリアという名の良家の令嬢となっていたのだ。
「エクセリア! 記憶がなくなったというのは本当なのか!?」
「は、はい……ええと、貴方は」
「父だよ! 君の父だ!」
エクセリアの身体に入ったものの記憶までは共有されていなかった私は、取り敢えず記憶喪失ということで周囲に理解してもらうことにした。
「エクセリア、一体何があったの!?」
「ええと、貴女は、お母様……でしょうか?」
「そうよ! 覚えているの!?」
「いえ……ただ、そちらの男性が父とのことだったので、もしかしたらそうかな、と」
「あぁそういうことなのね……覚えていたわけではない、ということ……。でもいいわ。ありがとう、察してくれて」
だってそうするしかないだろう?
何も知らないのだから。
ただ、こちらの世界の言語が話せた、という点は運が良かったとは思う。
記憶うんぬんはどうとでもなる。ただ言語だけは違う。それが分からないとどうしようもないし、周りと意志疎通することさえ難しくなってしまう。言語は意志疎通の要であり、もっとも重要なもの。それゆえ、ここへ来る前の私がまったく知らなかったこちらの言語が話せたというのは、非常にありがたいことであった。
突如記憶喪失になったエクセリアは婚約者だという男性に呼び出された。
「エクセリア、君の記憶がどこかへいってしまったという話は本当なのか?」
「……はい」
「そうか分かった。では。君との婚約は破棄とする」
「え」
いきなりそれ!? と思いつつ。
「これまでの記憶がなくなった君になど価値がない。よって、関係は終わりとする。君はもうどこへでも行ってくれ、ここにいなくていい」
婚約者オーガンがきっぱりと冷ややかにそう言った。
こうして私、否、エクセリアは、婚約者オーガンに捨てられることとなった。
他人事ではあるのだけれど。
でも気の毒に思う。
記憶を失ったからということで切り捨てられるなんて。
いや、彼のことを覚えていなければ辛くはないのか……。
でもどうしてもエクセリアが気の毒なような気がして、私が何かされたわけではないのに何とも言えない気分になった日だった。
◆
けれどもエクセリアは孤独にはならなかった。
エクセリアが婚約破棄されたと知った何人もの男性が彼女との婚約を望んでやって来たのだ。
「実は、ずっと、エクセリア様に恋していたのです」
「結婚したいですっ」
エクセリアのもとへ毎日のように男性がやって来る。
「せっかくの機会! ここで告げる! 愛しているんだ!」
「我輩と結婚してほしい」
「ちゅきちゅき! だいーちゅっきでちゅお!」
彼らは皆、エクセリアと結ばれることを望んでいた。
エクセリアではない私が決めて良いのか? と思いつつも、私は、吟味した結果一人の男性を未来の夫とすることを選んだ。
選んだのはフィブリという少しぽっちゃりした穏やかな青年だ。
彼は裕福な家の生まれ。
しかしそれを悪い意味で誇っている部分はない。
良い意味で品があり、それでいて気さく、少々おっとりしているところも可愛らしい。
「ええっ! 僕ですか!?」
「はい。ぜひ……よろしくお願いしたいと」
「は、ははは、は……あ、すみません、そのっ……う、嬉しくて」
選んだと告げた時、彼は顔を真っ赤にしていた。
でも微笑んで。
「こちら、こそ……よろしくお願いいたします。仲良くしてください」
懸命に言葉を紡いでくれた。
純粋さが好きだ。
器用でなくても真っ直ぐに生きているところも。
だから私は彼を選んだ。
エクセリアも、私も、彼とならきっと幸せになれると思う。
◆
エクセリアはフィブリと結ばれたことで幸せを掴むことができた。
いや、実際に生きているのは私なのだけれども。
私が幸福を感じているのだけれども。
でも、きっと、エクセリアもフィブリのことを悪くは思っていないだろう。
私とエクセリアは一つ。
共に幸せになれたと言えるはずだ。
都合のいい解釈でしかないのかもしれないけれども……。
ただ、今私は幸せで、フィブリとはこれからも楽しく生きていけるような気がしている。
ちなみにオーガンはというと、婚約破棄に激怒した私の父親の権力で職場から追放されたことで職なしになってしまいそのショックからか実感の自分の部屋に引きこもるようになってしまったそうだ。
また、非常に情緒不安定になってしまって、あれから今までずっと自室にいるか親に当たり散らしているかというような日々を過ごしているらしい。
ま、そんなことはどうでもいい。
オーガンとの関係は終わったのだから。
もう彼のことを気にする必要なんてないのだ。
たとえ彼の話を聞いたとしても、ああそうなんだへぇ~、と軽く思うくらいのものである。
◆終わり◆




