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婚約破棄された、それでも私は貴方を思い出すのです。
「もう終わりにしよう。……婚約は破棄するから」
その日、すべてが壊れた。
突然幕開けた戦争で、突如発生した災害で、人は時にすべてを失うことがある。
それらの災難と同じように言うのは失礼かもしれないが。
けれども、彼に告げられた婚約破棄は、それらに等しいくらいの大きな出来事だった……あくまで、私にとっては、だが。
当たり前に来るはずだった明日を、私は失った。
生きている。
それだけまだ恵まれているとしても。
◆
時は流れてゆく。
悲しみも、痛みも、すべてを負ったままでも。
何があっても、何を背負おうとも、一秒は変わらず一秒で。
あれから長い時が過ぎた。
それでも、今も、ふとした瞬間に貴方を思い出す。
婚約破棄された。
もう終わったのだ。
理解していないわけではないし、異なる道を選び進みそこそこ幸福になれたのだけれど、それでも貴方の影が消えることはない。
どれだけ時が流れても。
私が私である限り。
貴方のことを思い出すことはやめられない。
とうに婚約破棄された。
それでも。
私は貴方を思い出し、想う。
◆終わり◆




