彼の前から消えてくれとか言ってくる女性がいきなり現れました。~貴方は一生私に金を捧げて生きれば良いのです~
「ねぇ、貴女、オルガン様の前から消えてくださる?」
一人の女性がいきなりそんなことを言ってきた。
光が当たると僅かに藍色にも見える黒髪は長く真っ直ぐで腰の辺りまであり、頭部には羽根のついた白薔薇の髪飾りをつけている。ドレスは見るからに豪華そう、胸もとやら首まわりやら外側の布をたくし上げている部分やらにはふんだんに宝石があしらわれていて。コバルトブルーの布はシルクを染めてもののようにも見える。そして耳には爪十個分くらいの大きさのダイヤモンドのイヤリングを装着している。
「え……あの、何の話でしょうか?」
「貴女がオルガン様の婚約者なのでしょう」
「あ、はい」
「けれども貴女は彼に相応しくない……分かるでしょう? わたしを見れば分かるのではなくて?」
どうやら彼女は我が婚約者オルガンの浮気相手のようだ。
「貴女みたいな地味な女、彼の隣に立つ資格はないわ」
「そうでしょうか……」
これでも我が家は資産家だ。
土地もかなりたくさん持っている。
それでも相応しくないのだろうか。
「いいから! 今ここで! オルガン様と別れると言って!」
「ええ……」
「いいから言いなさいよ!」
「でも、ありがとうございます。貴女のおかげでオルガンさんが浮気していたことは分かりました」
「はぁ!? わたしとオルガン様は運命の番! 貴女は邪魔者!」
会話が成り立たない……。
その日は一旦帰ってもらった。
そしてすべてを親に話して。
その後父に頼んでオルガンに彼女について聞いてもらうことにした。
――その結果、あの女性は飲み屋でいろんな男性の相手をしている女性であることが判明した。
オルガン自身も飲み屋にて知り合ったそうだ。
彼女が良いものを身につけていたのは、仕事で相手した男性から色々贈ってもらっていたからのようだ。
「婚約……破棄させてください。僕は彼女を……愛してしまっています」
「正直だな」
言葉を交わすのは、オルガンと私の父。
「分かった、では、婚約は破棄ということで」
「あ、ありがとうございます……!」
「ただし、オルガンには、一生稼ぎの半分を娘のところに入れてもらう」
「ええっ!?」
「それが婚約破棄の条件だ」
「そんな……」
「我が娘に迷惑をかけておいてただで解決できると思うな」
「……はい、分かりました」
こうしてオルガンは一緒に私にお金を入れることとなった。
彼はそれでも愛を選んだのだ。
それもまた彼の選択、それも一つの人生だろう。
――だが、そこまでしてあの女性との道を選んだオルガンも、数ヶ月であの女性と破局してしまったようで。
結局彼のもとには何も残らなかったようだ。
ちなみにあの女性も、オルガンと別れて少しして異性関係で揉めて殺害されてしまったそうだ。
一方私はというと、あの後少しして求婚してきた元騎士で現在は高級冒険者をしている青年と結婚した。
オルガンがどうなったかは知らないけれど。
そんなことはもうどうでもいい。
私が行くのは私の道、だから彼のことなんて気にはならない。
彼は生涯金だけを捧げれば良いのだ。
◆終わり◆




