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胡散臭いなとは思っていましたが……やはり貴方は良い人ではありませんでしたね。

「好きなんだ! 君しか見えない!」


 エデルリースとの出会いは通っていた学園。

 私たちは同じ学年の生徒だった。

 そしていつからか彼が私につきまとい追いかけるようになった。


「君と生涯を共にしたい! もう心は決まっている! だから、あとは、君が頷いてくれるだけでいいんだ! それだけで! すべて解決する!」


 彼は、登校から下校まで、ずっと私につきまとっていた。


 しつこい、と思ってしまうほどに。


「君は丸であの美しき月のよう! 星のよう! 花のようで、蝶のようでもある! 君がいてくれるだけで世界は色づき輝くのだ! 美しい女性、姫君よ、どうか共に生きてほしい!」


 並べられるのは胸焼けしそうな言葉ばかり。

 胡散臭いとしか思えず。

 どうしても好きにはなれなくて。


 でも、母はその気になってしまって――。


「素晴らしい人じゃない、貴女をこんなに想ってくれる人なんてもう二度と現れないかもしれないわよ? 結ばれちゃいなさいよ」


 その母に強制されるように、私はエデルリースと婚約することとなった。


 ロマンチストでも甘ったるくて怪しさしかない彼。

 私はどうやっても好きになれそうになくて。

 けれども婚約したから今さら嫌だからと逃げるわけにもいかず。


 私は結局エデルリースと生きるしかないのだ――そう思っていたのだけれど。


「君との婚約、破棄するよ」


 ある日突然彼はそんなことを告げてきた。


 言葉を失う。

 あまりに突然過ぎて。


 それに、身勝手過ぎやしないだろうか?


「もっと素敵な女性に出会ったからね」


 婚約を望んだのはエデルリースだ。私は、こちら側は、それに応えただけの話。にもかかわらず彼は婚約を解消するというのか。初めておいてやめるというのか。


「君は思ったよりぱっとしなかった。美しいのは立ち居振る舞いだけ、ユーモアはないし一緒にいても何も楽しくない。抜け殻みたいな君と生涯を共にするなんて、聡明な僕には耐えられない。だから……悪いが、すべて終わりとさせてもらうよ」


 意味も分からないまま、私は婚約破棄された。


 かつて並べていた甘い言葉。

 どうやらあれらは本物ではなかったようだ。

 そうでなければこんなことはできまい。


「そうですか、分かりました」


 こうしてすべてが終わってゆく。


 私たちの関係の、その、すべてが。



 ◆



 あれから数年、私は、行きつけの花屋の若き店主と結ばれることとなった。


 エデルリースの時とは違う。

 私も望んでのことだ。

 今、私と彼は、心通わせることができている。


 もちろんすべてを分かり合えているわけではないだろう。


 それでも、私たちは共に歩もうという思いを、同じように抱えることができている。


 一方エデルリースはというと――あの後婚約者の女性と山歩きに出掛けていたところ毒虫に刺されてしまい、治療が追いつかず、苦痛に悶えながら絶命したそうだ。



◆終わり◆

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