婚約破棄され捨てられた姫は魔王城でのんびり暮らす! ~これからは穏やかに幸せに生きていきます~
「オリヴィア姫、悪いが君とは生きてはゆけない! あのような弱小国の女と付き合っていくのはやはり無理だ! ということで、婚約は本日をもって破棄とする!!」
婚約者で隣国の王子であるオルクスは突如城に私を呼び出して婚約破棄を宣言した。
周囲からは私を憐れむような笑みが聞こえてくる。
なぜ当事者でもない人たちがそんなに楽しそうなのだろう、という疑問はあるけれど。
しかしまぁ、他国の姫が王子から婚約破棄を宣言されていれば、自然と皆の興味を引いてはしまうだろうから、周囲から何かしらの反応があるのは避けられないことなのかもしれない。
「あの王子、女がいるみたいねぇ」
「お姫様可哀想に」
「あらあら憐れなお嬢さんだことぉ」
「ちょっと魅力が足りないんじゃない?」
「くすくす。まぁね確かにそれもあるかもしれないわね」
「言っちゃ駄目よぉ」
色々な言葉が聞こえてくるけれど。
ここは敢えてそれらの声は聞こえていないふりをして。
「承知しました。それでは私はこれで。失礼いたします」
落ち着いてそれだけ言って、その場から去ることにした。
しかし……婚約破棄されたとなるとこれからの人生設計が大きく変わっていてしまいそうな気がする。
これから私はどうなってしまうのだろう?
これからの私はどんな風に生きていくことになるのか?
それに両親ががっかりしないだろうか?
つい、色々考えてしまって。
それらの思考を私はすべて振り払った。
考えないようにしよう。
その方が良い。
考えても何も変えられないのなら考えるべきではないだろう。
◆
オルクスに婚約破棄されてから数週間が経ったある日のこと、我が王家に魔族の王との婚約話が浮上してきた。
「そういう話が出ているのだが、オリヴィア、どうだろうか?」
「魔王との結婚……ですか」
「あぁそうなんだ。種族は違うが、喋ってみた感じ彼はとても誠実そうなお方だった。彼となら幸せになれるのでは、そう思ってな」
「お父様がそう仰るのなら……あの、一度会ってみても?」
「ああ! ありがとうオリヴィア! では早速、一度、対面の場を設けることとしよう!」
もう結婚うんぬんでややこしいことになるのは嫌だった。
だから誰かと結ばれようなんて考えていなくて。
けれど魔族の王という存在には少々興味があったので、せっかくだから一度顔を見てみたいと思って……若干失礼かもしれないが、そんな軽い気持ちで彼に会ってみることを決めた。
そうして対面した魔族の王、通称魔王に一瞬で惚れてしまった私は、即日彼と結婚する方向で話を進めることを決めた。
「オリヴィア、まさか、あそこまで気に入るとはな……驚いた」
「すみませんお父様。勝手なことを」
「いや、いいんだ。魔族と手を取り合えるというのはこの国にとっても良いことだと考えている。オリヴィアがその力になってくれるというのは嬉しいことだ」
平凡な国の姫であった私は魔族の王と結ばれた。
そして彼の生まれ故郷にある魔王城へ引っ越すことになった。
◆
以降、私は魔王城にて、穏やかな毎日を手に入れた。
そこはとても環境が良い場所で。
戸惑ったのは数日だけ、あっという間にそこでの暮らしに慣れた。
魔王城で働く者たちは皆少々個性的な容姿の持ち主ではあるけれど、見た目が厳つくとも悪質なところはなく、むしろ純粋な心の持ち主が多い。そのため、人な私に出会っても酷いことはしないし、温かく接してくれた。
優しいな、魔族。
魔王城へ入ってすぐ、そう思った。
現在は魔族の国と我が国との関係は良好であり、互いに足りない部分を補い合って、共により良い国を作り上げている。
ちなみにオルクスの国はというと、資源欲しさに近くの国に一方的に攻め込んだことで近隣諸国から強い批判を受けて孤立、その後疲弊しつつあったところを周辺国から一気に叩かれて滅んだそうだ。
今はもうあの国はない。
その国があった場所は、周辺国が分けて占領している。
ということらしい。
ちなみに、オルクスを含む王家の者たちは、その多くが処刑されるか裏商人に売り飛ばされたそうだ。
オルクスを含む国王の直の子孫らは国民の前で処刑。
一応王族に含まれてはいるものの関係が遠い者たちは、男性は処刑あるいは強制労働を強いられ、女性は売り飛ばされたとのことである。
ま、戦争を始めたのは彼の国なのだし、理不尽に攻め込まれたというわけではないから自業自得だろう。
私はこれからも穏やかに魔王城で暮らす。
戦争なんて気にせず。
穏やかに満ちた世界で温かな者たちと共に生きていくのだ。
◆終わり◆




