婚約破棄、なんて、簡単には発生しないものだと思っていたのですが――その認識は間違っていたのかもしれません。
婚約破棄、なんて、人生において発生する出来事ではないと思っていた。
そのようなことになる人は限られた人だけだろう。
それも何かしら問題となるようなことをやらかした人だけ。
そんな風に思っていた。
――けれど。
「君は忠実でない。奉仕すら拒否するような女と結婚なんぞ、できるわけがないじゃないか。ということで、君との婚約は破棄とすることとした」
私の人生にも訪れてしまった。
婚約破棄の瞬間が。
浮気とか、犯罪とか、何もやらかしてなんていないのに。
「え。待ってください、結婚前には触れ合わないものでしょう?」
「命令されれば従うのは当たり前のことだ」
「そんな……あまりに身勝手です、仕事でもないのに」
「そういうところだ! そういうところが可愛くない。ったく、可愛らしいのは顔だけでがっかりだよ」
私が間違っているの?
彼が間違っているの?
答えなんて誰もくれず。
けれども話は着実に進んでいっていて。
「本日をもって他人となる――いいな。金を取らないだけましだろう? 感謝してくれよ」
どうしてこんなこと……。
あまりに勝手で……。
けれども私はそのまま婚約破棄されてしまった。
◆
あの後、男性がいなくて生きてゆける力をつけるために、ということで、私は一人の女性冒険者に弟子入り。
そして彼女から剣を習った。
すると驚いたことに才能が開花、あっという間に国内ランク一位にまで上り詰めてしまった。
そして、ちょうどその頃に攻めてきた魔王軍を一人で蹴散らし、その一件で国王に感謝され――王子と結婚することができた。
逞しすぎる。
そう言う人もいる。
でも、夫は、王子は私を「素晴らしい人だよ」と言ってくれている。
たとえ理解してくれない人がいたとしても、それもまた多様性である。だから一部の否定的な人のことは気にしない。彼らはそういう価値観を持っているのだ、と解釈するだけのことだ。
近くにいる人が分かってくれていればそれでいい。
一番近しい人が能力を認め愛してくれるならそれでいい。
ちなみに、かつて私を切り捨てた彼は、私が王子と結婚することになったことに嫉妬したのか私の悪口を書いた紙を王都にて大量にまき散らしたそうで――その迷惑な行動によって拘束され、五十年の労働刑に処されたそうだ。
彼はもう檻から出られない。
五十年、なんて、終わる頃には大抵死んでいる。
きっと彼はもう自由には生きられないだろう。
たとえ五十年をやり終えても、その時にはもう死が近いだろうから、きっとそれから楽しく生きることはできない。
◆終わり◆




