婚約破棄されましたが、後に幸せになれました。大好きな姉とも一緒に暮らせているし、とても嬉しいです。
私には姉がいる。
だが普通の姉ではない。
これは表向きは一切明かされていないことだが――彼女は裏で暗殺稼業を営んでいるのだ。
とはいえ、私にとってはとても優しい姉である。
そんな姉のことが私は大好き。たとえ黒い行いを生業としているとしても、だ。それに、それでも姉であることに変わりはないし。だから私は彼女を愛し尊敬している。
◆
「アンタみたいな地味な女、三日で飽きたわ。てことで、婚約は破棄な!」
婚約者レッドフィルはいきなり告げてきた。
昨日まではそんなことは言っていなかった。
様子の変化さえなかった。
まるで今さっき思いついたかのような婚約破棄だ。
「待ってください、それはあまりに……」
「婚約は破棄って言ってるだろ!!」
「っ……」
「いいから消えろよ! しつけーんだよ!」
こうして私は彼の家から出る。
するとそこには姉がいて。
「姉さん……?」
「婚約破棄を告げられたようね」
「あ……う、うん」
「出てきて本当に良かったの? 粘らなくて良かったの?」
「仕方ないよ」
彼女が言うには、物陰に潜んで会話を聞いていたらしい。
「仕方ない、なの?」
「うん……だって、私みたいな地味なの、人気なくても仕方ないよ。姉さんみたいな美女じゃないし」
「彼への想いはないということ?」
「うん、もう大丈夫! あの人に執着はないよ」
それでも涙は出たけれど。
「ごめん、私、何で泣いてるんだろう……」
でも本当に、彼と一緒にいたいとかはない。
「気をつけて帰るのよ」
「あ、うん。でも、姉さんは?」
「私は今から用事」
「そう……頑張ってね」
「ありがと!」
翌日、レッドフィルの死が確認された。
衝撃は大きかった。
だが私はすぐに知ることとなる。
姉が暗殺したのだと。
「姉さん……ごめん、私のせいで仕事増やして」
「いいえ、あれは私が望んだことよ。貴女は関係ないわ。だから貴女は何も思わないで」
「……そう」
「妹を傷つけるような人間を私が許せなかった、それだけのことよ」
◆
レッドフィルとの別れから十年。
私は犬の調教を仕事にしている男性と結婚した。
そして姉も一緒に暮らしている。
夫は心が広い人だった。
だから、私が「姉もここに住まわせたい」と言った時にも、理解を示してくれた。
夫のおかげで今も大好きな姉と共にあれている。
これは何よりも嬉しいことで。
彼には言葉にできないくらい深く感謝している。
◆終わり◆




