わがまま王子な婚約者から婚約破棄を言いわたされましたが……正直嬉しいです。では、速やかに去りますね。
私の婚約者であるルルージェ王子は、国王の息子という貴い人ではあるが、それに相応しい素敵な心を持った人ではない。むしろ、その地位が悪い方に影響を及ぼしてしまったパターンで。いつも口はぽかんと空いていて鼻水を垂らしているような状態であるにもかかわらず、周囲には非常に高圧的で、すぐに癇癪を起こす。周囲への配慮、なんて、欠片ほども持っていない人である。
「おい! 女! 早く茶淹れろよ!」
「はい」
「おっせぇなぁ!」
「申し訳ありません、数分はかかります」
「ぐずぐずしてんな! 早く、って、言ってんだろ! 王子たる僕の命令が聞けないのか? 雇ってもらってんだろ、いい加減にしろよ!?」
――侍女とのこんなやりとりは日常茶飯事である。
そんな彼だから、私は嫌いだ。
どうしても好きになれない。
地位が上だからって権力で脅したたり圧をかけたり。
どうしても馴染めない。
上に立つ者は、あくまで、寛容であるべきではないか。酷い失敗を繰り返す、とかならともかく。ちょっとしたことにあれこれ言うような狭い心の持ち主であってはならないはずだ。
でも、だからこそ。
「お前との婚約、破棄とする!!」
そう告げられた時は驚きつつも嬉しさもあった。
「ルルージェ様……本気なのですか?」
「お前は僕に尽くさない。どころか、意見を言ったり、冷ややかな目で見てきたりする。無礼にもほどがある。よって! 婚約は破棄とすることにしたのだ!!」
「そうですか……分かりました」
「分かったなら今すぐ城から出ていけ!!」
「はい」
ルルージェに対して情はない。
出ていけと言われたなら出ていこう。
◆
二年後、王家は滅んだ。
国王の一人息子であったルルージェ王子はついに誰からも相手されなくなり結婚できず、それゆえ子を設けることもできず、直系の国王の血は途絶えた。
そして、そのことが引き金となり、国民が立ち上がる。
いつまでも王家に好きにさせていてはならない――。
国民は立ち上がり活動を開始。
そしてついに王家を打ち倒した。
民の力は何より偉大だった。
そして、この国は、新しい民のための国となったのだ。
かつて王と王妃だった者は国から出ていった。
ただ、二人と一緒に出ていく予定だったルルージェ王子は、出国前夜に何者かに暗殺された。
王家がなくなり、今、この国は平穏への道を歩み出そうとしている。
一方私はというと、立ち上がった国民の中でリーダー的存在だった男性と結婚し、新し秩序づくりに協力しているところだ。
◆終わり◆
 




