妹が良かったといつも言っていた婚約者は私との婚約を破棄して妹と結婚する道を選んだのですが、妹の顔に傷がつくと……。
「貴様との婚約は破棄とする!!」
妹が良かった、といつも言っていた、婚約者オードレイス。
彼が婚約の破棄を宣言してきたのは、ある秋の日だった。
冬が近づき心なしか肌寒さを感じるようになってきたくらいの時期だ。
「婚約破棄……なぜですか?」
「貴様の妹さんと婚約できる話がまとまりつつあるから、だ」
「ええっ、そんな、知りませんでした」
妹からもそんな話は聞いていなかった。
それだけに驚きで。
目玉が飛び出すかと思ったくらいだ。
「まぁ何にせよそういうことだから、貴様はもう役目を終えたということなのだ」
妹は妹で、それを受け入れたのか……。
それもまた複雑な心境だ。
「そうかもしれませんね……」
「分かったか?」
「はい」
「よし。ではこれにて、別れることとしよう。では! さらば!」
オードレイスは爽やかな感じでそんなことを言った。
正直こちらはもやもやしかしない。
彼は願いが叶って嬉しいかもしれないけれど、私は理不尽に切り捨てられて心が暗雲で満たされたような感覚だ。
その後オードレイスは言っていた通り私の妹ネルと婚約し結婚した。
だが、二人の結婚式の日、事件は起きた。
式場にて謎の爆発が起こったのだ。
それにより多くの参加者が負傷か死亡かし、ネルは顔に傷を負った――するとオードレイスは「傷ものは要らねぇ、婚約はやめだ!」と言って結婚式から脱走。
その日はたまたま風邪で式を休んでいた私のところへ来て。
「爆発でネルが傷ものになった。だから貴様とやり直そうと思う。あんな状態のやつなら貴様の方がましだ、傷がない分」
馬鹿だろうか?
それが本心で。
「すみませんが、お断りします」
私は咳をしながら断った。
当たり前だろう。
傷がない分まし、とか、話にならない。
◆
あれから数年、私は伯母の紹介で知り合うこととなった若き資産家の青年と結婚した。
おかげで今は何の苦労もなく生活できている。
彼は心の広い人で、ある程度私に自由を与えてくれるし、私の話も聞いてくれる。
だから私は彼のことが好きだ。
彼といると心地よい。
ああ、そういえば、ネルはあの後顔の状態に絶望して自ら死を選んだらしい。そして、オードレイスは、傷を負った瞬間ネルを捨てたために周囲から悪魔と呼ばれ批判され虐められるようになってしまったそうで。いつしかいづらくなった彼は、生まれ育った地から出ていったそうだ。
◆終わり◆




