女をやたらと見下してくる感じの悪い婚約者が婚約破棄と言い出したので、速やかに受け入れることにしました。
「あんたさぁ、自分が女だって気づいてねぇのか?」
婚約者ルーフェは女性を見下しているところがある男性だ。親戚の紹介ということもあってほぼ強制的に婚約することになったのだが。正直言うと、私には彼の魅力がまったくもって理解できない。
彼のどこを良いと思って紹介してきたのだろう?
謎でしかない。
こんなにも心ない人の魅力、とは、一体……?
「女ですよ」
「一応自覚はあるってわけか」
「はい」
「だがなぁ、女だって知ってんなら、振る舞い方ってもんがあるだろ」
本当に、嫌い。
「女ならさぁ、もっと、男に対して忠実になって媚を売れよ」
「ええ……」
「そういうところだよ!! もっと可愛く振る舞えってんだ。そして、男の言ったことはすべて肯定し受け入れろ。何か言われたら従え」
「それは……奴隷ではないので無理です」
「そういうの!! 生意気なんだよ!! 女のくせに!!」
女だから何?
私は奴隷じゃない。
私だって、言っていることがまともであれば、多少は従っただろう。けれども、彼の言うことはいつだっておかしなものだ。正しいとは到底思えないようなことばかりだ。だから私は従わないし言いなりにはなれない。それは、私が、人としての尊厳を抱えた一人の人間だから。奴隷でも、家畜でも、ないからだ。
「ああもういい!! こうなった、婚約なんざ破棄してやらぁ!!」
――来た。
これは良いチャンスだ。
「はい、分かりました」
「……な」
少しばかり驚いた顔をするルーフェ。
想定外の反応だったか。
「婚約破棄、ですよね」
「はぁ? 随分余裕そうだな」
「私たちは気が合わないようですので……それが良いと思います」
「生意気女が!! 泣いて謝れよ!!」
「いえ、できません。では。さようなら」
私たちはこれでおしまい。
もう関わりはしない。
◆
あれから数日、ルーフェは、突如謎の奇声を発して暴れ出しさらには家から駆けて出ていったそうで――それから行方不明となり、後に、亡骸となって西の森で発見されたそうだ。
だからもう彼はこの世にはいない。
何が起きたのかは知らない。
けれども彼は罪を償うこととなった。
罰からの罰か何かか。
だがその方が良かったかもしれない――これでもう彼と婚約する人は増えないし、私が言われていたようなことを言われる人も出なくて済む。
そういう意味では。
彼のような人はこの世にはいない方が良いのかもしれない。
◆
三年五ヶ月後。
私は鳥彫刻の大家である男性と結婚した。
私は今は鳥を数匹飼育している。
これもまた、夫の彫刻のモチーフの一つとなる鳥である。
◆終わり◆




