意地悪妹が婚約が決まりご機嫌でありがたいです。と思っていたら婚約が破棄となり、内心がっかりしていたのですが……?
意地悪妹フィフィは最近機嫌が良い。
なぜなら、前から憧れていた良家の子息ポーンと婚約することができたからだ。
ありがとう、ポーン。
それが私の純粋な思いである。
だって、彼がフィフィを選んでくれなければ、彼女が機嫌良くなることもなかった。そして、彼女に嫌われている私が、こうして数日虐められずに済むことだってなかったのだ。そういう意味では、ポーンは、私を守ってくれる盾であり騎士のようなものである。
あれだけ酷いことを繰り返してきた人でも幸せになれるものなのか……と世の理不尽さを感じる部分もあるけれど。
それでもポーンには感謝している。
会ったことはないけれど。
それでも、ありがとう、そう言いたい。
◆
婚約から二週間。
フィフィが号泣して家に帰ってきた。
「おがあだまぁぁぁぁ、おどうだまぁぁぁぁぁぁ、ごんやぐばきだれだぁぁぁぁぁぁぁ」
フィフィはポーンに切り捨てられたらしい。
その理由は。
フィフィが他の男性と仲良くしていたうえポーンがその話をすると真摯に対応せず怒ったから、ということだそうだ。
まぁ……それなら仕方ないか、と思った。
せめて真面目に対応していれば。
そうすればポーンだって婚約破棄はしなかっただろう。
悪いのがフィフィだ。
彼女はきちんとした対処をできなかった、そこに非がある。
とはいえ、これでまた前に戻ってしまうと思うと憂鬱で……私は内心がっかりしていた。
ようやく解放されると思っていたのに。
また虐められる日々に戻ってしまう。
また嫌な思いを重ねる日々に帰ることになってしまう。
絶望の種は確かにここにあった。
――が、虐められる日々に戻るようなことにはならなかった。
というのも、フィフィは弱りきっていたのだ。
今の彼女には他者を虐める元気などなく。
壊れ弱りきった彼女は廃人のようで人形のようでもあって。
もはや私に絡む知能さえ失っているようだった。
そして、それから数ヶ月が経ち、フィフィは自ら命を絶った。
母は懸命に世話をしていた。
にもかかわらずフィフィは逝ってしまった。
それが辛かったのだろう。
葬式の日、母は、これまで見たことがないくらい豪快に隠そうともせずに号泣していた。
もしフィフィが意地悪でない妹だったとしたら――私も、母のように、周りなど気にする余裕もないくらい泣いていたのかもしれない。
◆
あれからどのくらい時が経っただろう。
正直すぐには思い出せない。
けれども私は二十四歳になった。
先日、私は、結婚した。
散々虐められてきた人生だった。けれどもそんな私でも包み込むような優しさを持つ人と結ばれることができて。どうやらある程度の幸せは手にいられそうだ。私より積極的で一見愛らしそうな妹でもたどり着けず終わった場所に、私はたどり着くことができた。
運命とはなかなか分からないものだ。
◆終わり◆




