貴方に非はなくても、貴方の母親には罪があるのです。ですから婚約は破棄とさせてもらいます。
私とオーマンは婚約者同士。
関係は悪くはない。
むしろ仲良しに近いくらいである。
けれども彼の母親は私を嫌っているようで。
隙あらば嫌がらせをしてくる。
もうすぐ嫁になるのだから練習も兼ねて少しは家事を手伝えと言って呼び出して一日中雑用をさせさらにそこへあれこれ細かいいちゃもんをつける――なんてことも日常茶飯事だ。
嫌いなら放っておいてくれれば良いのに……といつも思うのだが、どうやら、そうする気もないようで。関わらないようにしておくのは嫌みたいだ。何が何でも嫌がらせをしたい様子……彼女はとにかく私の行動にいちゃもんをつけたいようなのである。それがいきがいであるかのような熱量で私や私の行いを細やかに否定してくる。
多分それが趣味みたいなものになっているのだろうな。
何となく想像はつく。
他人を否定するのがとても楽しいのだろう。
とはいえ、いつまでも付き合う気はない――ということで、私はオーマンにそのことを伝え、近く婚約を破棄する気でいるということも伝えた。
するとオーマンは大慌て。
母親を叱るべく走る。
「おかん! 俺の婚約者にいちゃもんつけまくってるらしいな! やめろよ!」
「何を言っているの? オーマン。あなた、あんな女の言うことを信じているの? だとしたら馬鹿ね、愚かよ。あなたを生んだ母より、あんな関わりの軽い女の話を、簡単に信じてしまうなんて」
その日、オーマンと彼の母親は口喧嘩になり、その果てに取っ組み合いにまで発展してしまったようで――その最中に石の階段を百段以上転落してしまい、落ちきった時には落命していたそうだ。
ちなみに、オーマン自身は、死にはしなかったらしい。
けれども彼とはもう縁を切ると決めた。
なぜなら、彼の顔を見るたびに、あの不愉快な人を思い出してしまうから。
彼には非はなかったかもしれない。
けれどももう彼とは歩めない、そんな気がする。
「婚約は破棄よ。さようなら、オーマン」
「そんな……嫌だよ……」
「ええ、私もよ。貴方のお母様からすることすべてにいちいち嫌みやら批判やらを言われて、でも誰も気づいてくれず……ずっと嫌だったわ。地獄のような苦しみだったわよ。……じゃあこれで、さようなら」
私はもうとどまらない。
未来へと進むため。
翼を広げてこの道の先へと向かう。
◆
あれから数年、私は親戚のお姉さんが営んでいる喫茶店で店員として働いている青年と結婚した。
親戚のお姉さんは良い人だった。だから、彼女に会いたくて、客として店に通っていた。そんなある時、店員の青年が結婚相手を探しているという話が出てきて。それから、彼とも関わるようになっていった。そしてついに結婚するに至ったのだ。
◆終わり◆




