確かに私は魔法使いです。ただ悪い魔法使いではなかったのです。けれど……親のことまで悪く言うような貴方に対しては、優しさは使いません。
私は生まれつき魔法使いだった。
けれどもその力を悪用したことはなかったし何なら良いように使ってきたことの方が多かったと思う。
だがそれで受け入れてもらえたかというとそうでもなくて。
理不尽だし悲しいことだけれど、どちらかというと嫌われているようなことも少なくはなかった。
やはり、どうしても、魔法を使えない人からすると魔法を使える人は不愉快な存在のようなのだ。
そして、それは、婚約者である一歳年上の青年ヴェルグも同じ。
彼は魔法を使えない側の人間で。
魔法を使える者を良く思っていない人間であった。
「リリス、やはり、どう頑張ってもお前を受け入れはできない」
「ヴェルグさん……」
「魔女を家に入れる、そのことを、どうしても受け入れることができないのだ」
ヴェルグも少しは努力はしたようだが、それでも、私を理解することは少しもできないようで。
「よって、婚約は破棄とする」
その日、彼は、迷いのない瞳でそう宣言した。
私は一応説得してみようとはした。
けれども無駄。
彼の耳は固く閉ざされてしまっていたのだ。
「そうですか……残念です」
「俺も残念だよ、お前が魔女で、さ。お前が魔女でなかったなら、少しは仲良くなれたかもしれなかったのに」
「ですね」
「はぁ、がっかりだ。ま、魔女なんか生きている価値もないものさ。周りからすれば害しかないからな。まったく、魔女を生むような輩なんか消えてほしいよ」
どうしてそんな言い方……。
しかも親まで悪く言うようなやり方をするの……。
心が震えて、それで。
「親を悪く言わないでください」
気づけば私は厚い本を取り出していた。
そして放つ魔法。
眩い光がヴェルグの全身を包む。
「なっ……何だ!? 何をする気だ!?」
「私が悪だとしても、親は悪ではありません。それを、そんな風に、消えてほしいとか言われたら傷つきますし正直腹が立ちます」
――そして彼は本の一ページの挿絵となった。
挿絵は動かない。
つまり彼はもう二度と動けないのだ。
何かの奇跡で本から脱出しない限り、彼は、一生――否、永遠に、本の中で挿絵として佇み続けるのである。
彼に未来はない。
あくまで、人間としての未来は、だが。
本当はこんなことしたくなった。
でも彼は私を怒らせた。
それも、私自身ではなく親を悪く言うような、卑怯なやり方で。
◆
時の流れとは早いものだ。
あれから三年が過ぎた。
私は魔法の才を活かして王宮魔法使いに就任、今は国のために働き、国民からも愛されている。
そして、明るい話もある。
そう――私、実は、もうじきこの国の王子と結婚するのだ。
これから先は魔法使いであったことを後悔しない道を選んで進もうと思っている。
◆終わり◆




