貴方に愛されることがすべてではありません! ですので婚約破棄は受け入れますが言いなりにはなりません!
「貴様、いい加減、俺の言うことに従えばどうだ」
私の婚約者であるエデリレッツォ、彼は非常に高圧的な人だ。
彼はいつも周囲の人を言いなりにしていないと満足できないようで、婚約相手である私にまで従うことを求めてくる。
けれども私には無理だ。
彼に言われたことに完全に従うというのは不可能。
なぜなら私にも心と人格があるからだ。
「申し訳ありませんができません」
「指示に従わないなら婚約は破棄するぞ」
「お好きにどうぞ」
「馬鹿女め、俺に捨てられたら貴様は女として終わるのだぞ。俺に婚約を破棄されたということは、貴様は、女としてのすべてを失うということだ」
私はそうは思わない。
エデリレッツォの奴隷になることがすべてだなんてちっとも思わない。
「何と言われましても、従えないことはあります」
私は人としての権利を捨てる気はない。
「誰も貴様を愛さない! そして、生涯、貴様は周りから『捨てられた出来損ない女』と見られるだろう! 子も産めず、女性としての道を行けず、ごみのように泥を啜って生きてゆくことになるのだ!」
エデリレッツォは顔を真っ赤にして激しく叫ぶ。
まるでむきになって喧嘩している子どものようだ。
いい年した大人の行動とは正直とても思えない。
「婚約破棄で結構です」
「はあぁ!? 意味が分かっているのか!? なぜそこまで落ち着いていられるのだ!?」
「貴方に捨てられてもどうでもいいから、です」
「はぁぁ!? ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!」
彼があまりに叫ぶものだから、私は速やかにその場から去った。
いずれにせよもうすべて終わった。
こうなったら逃げても問題ないだろう。
高圧的な彼から逃れられる良いチャンスだ。
婚約破棄から数週が経った頃、エデリレッツォとの婚約が破棄となったことを知った領地持ちの家の息子が婚約を希望してきて。私は、彼と数回対面した後に、彼と共に生きることを決めた。そして、彼と婚約した。
◆
あれから数年、私は今、領地持ちの家の当主の妻となっている。
しなくてはならないことは色々ある。手続きとか、書類の作成とか、日々何かと用事が多く忙しい。が、それでも夫と協力しているからこそ乗り越えられている。協力的な夫なのは非常にありがたいことだ。
ちなみにエデリレッツォはというと。
酔っ払って通行人の女性に過剰ないちゃつきを求めたために地域の警備隊に拘束されたらしい。
それにより彼の社会的評価が地に堕ちた。
だがそれだけではない。
彼は人権はく奪された後に強制労働五十年の刑に処されたらしく。
今後彼はこき使われ続けることとなる。
恐らく強制労働させられている間に命を落とすこととなるのだろう――なんせ、五十年、だから。
◆終わり◆




