わがまま王子に婚約破棄されました。~言うことを聞かないからだそうです。ま、別れるのも良いでしょうね~
私の婚約者はアルデンの王子、名はオーレイ・アルデン。
彼は整った容姿の持ち主だ。
しかし性格には難がある。
というのも、甘やかされて育ったこともあってか非常にわがままなのである。
彼は自分が言えば何でもその通りになるものだと思い込んでいる。そして、少しでも思い通りにならないことがあれば、すぐに関係者のせいにして喚くのだ。怒り出してしまえば誰も手をつけられないような状態になる。彼の望みが叶うまで延々と周囲は彼に当たり散らされることとなるのである。
彼の婚約者である私もまた、その被害を受けてきた者の一人。
「クッキー買って来いっていったじゃん!」
今も現在進行形で怒られている。
理由は言われていたクッキーを買っていけなかったから。
でも仕方ないではないか――王子の婚約者という身分である私は防犯の観点から自由に行動できないのだから。
頼まれた時にもそう説明した。
なのにまともに聞かず。
説明を聞かなかったことにしたのは彼だ。
「ですから、それはできないとお話しましたよね」
「はぁ? 何勘違いしてんだよ? 調子に乗るなよ馬鹿女!」
「私は自由には行動できない状態なのです」
「黙れ! 女なら、婚約者なら、いや人間なら、俺の頼みを受けるのは当然のことだろうが!! ……ったく、喜んではいと言い従うべきだというのにそれを理解できないとは、俺の婚約者に相応しい女とは思えないな」
不機嫌な時の彼には何を言っても無駄。
それは知っている。
それでも彼は私の婚約者であり無視はできないから付き合っている。
でも正直、疲れる。
「もういい! クッキーも買えないのなら! 婚約は破棄だ!!」
そう思っていたこともあって、婚約破棄を告げられた瞬間私は嬉しさを感じた。
「言うことを聞かないやつなど必要ない! 去れ!」
婚約破棄された。
本来であれば悲しく衝撃的な場面であろう。
けれどもこの時の私にとってはそんなことはなく。
それはむしろ、解放、であった。
「承知しました。それでは、失礼いたします」
「ああ! 役立たずは要らん!」
こうして婚約は破棄となった。
彼が一方的にそうしたのだ。
もちろん周囲はそのことを知っていたので私が悪く言われることはなかった。
その後私は隣国へ移り住みその国の王子と結婚。
少し不器用でも温かいその人と結ばれ幸せを掴むことができた。
「そんなことがあったのか、それは大変だったね」
「ええ……」
「いくら相手が母国の王子でも我慢できることとできないことがある、それは当然だろうね」
「そうよ。彼、いっつもわがまま放題で。止める人もいなくて。……あぁ、もう、思い出すだけでも溜め息が出るわ」
生まれ育った国から出ることには少々躊躇いもあったけれど。
でも今はこうして良かったと思っている。
愛しいと思える人に巡り会えたのだからあの時の選択を悔いるはずもない。
「そうだ、今日は贈り物を持ってきた」
「贈り物?」
「そう、これだ。受け取ってほしい」
夫からの贈り物は交番のデザインの置物だった。
これは一体……。
なぜこれを選んだのだろうか……。
「どうだ?」
そんなワクワクした目で見られても……ちょっと気まずい。
「これは……め、珍しいわね」
「な。おかしかったか?」
「気持ちが嬉しいのよ贈り物って。だから珍しい物でもいいの。それでも、貴方が私に物をくれた事実そのものが嬉しいのよ」
ちなみに、オーレイはあの後、侍女に殺害されたそう。
よく絡まれ虐められていた侍女の親友だった侍女が、構ってほしいと甘えているふりをして彼に近づいて――懐に潜り込んでから彼を殺めたのだそうだ。
ま、あれだけのことをやってきた彼だから、そんな最期というのも仕方ないことだろう。
他者を傷つけ。
他者を虐め。
わがままで皆に迷惑をかけてきた彼が、穏やかに死ねるはずもない。
◆終わり◆




