貴方の狙いは私ではなく私の家だったのですね……薄々気づいてはいましたが、それでも、残念です。
「君との婚約は破棄とすることにしたよ」
轟く、雷鳴。
胸の内で。
心の中、奥、その空間にある空気はこれでもかというほどに激しく掻き乱し揺らす。
婚約者オフェリガートに呼び出されて、けれども、こんなことになるなんて微塵も予想していなかった。まさかの展開、その言葉が似合うような、そんな展開。それまるで、晴れの日に突如雷に打たれたかのようで。
「君と生きれば君の家の権力と資金力によって一族豊かに暮らせる……そのためなら僕は君との未来を受け入れようと思っていた。けれど、最近、君との未来を想像するたび吐き気がしてくるようになってしまったんだ」
権力。
資金力。
結局彼が求めていたのはそれだけ。
私などどうでもよくて。
彼が私と結婚してまで欲しかったのは、私ではなく、我が家の力だけ。
……あぁ、薄々分かってはいたけれど、それでも切ない。
「ということで。これまでありがとう、そして、さようなら」
「どうしても無理、なのですね……」
「ああそうだよ、どうしても君と生きてゆくのは無理なんだ。行動が、とかじゃなく、君の存在そのものが無理なんだ。生理的に受け付けない」
オフェリガートは淡々と説明する。
私は黙って一礼するしかなく。
こうして私と彼の婚約者同士であった日々は煙のように消えた。
◆
あれから一年、オフェリガートがどうなったかを聞く機会があった。
話によれば。
彼はあの後五人の恋人と同時に付き合うことを続けていたそうだ。
だがある時その事実が明るみに出てしまい。
それによって恋人たちが大騒ぎして。
その騒ぎで彼の行いが世に出てしまい、親族も友人知人も仕事場の人たちも――皆がオフェリガートのお世辞にも誠実とは言えない行いを知ることとなる。
それにより、彼のイメージは下落。
特に女性陣からは悪口を言われたり口で攻撃されたりするようになったらしい。
男性陣からも若干引かれ。
誰からもあまり相手してもらえないようになってしまったそう。
で、オフェリガートは次第に心を病み、仕事へ行けなくなるのみならず家から出ることすらまともにできなくなったそうだ。
今は自宅で母親に面倒をみてもらいながら細々と生きているらしい。
だが唯一優しい母親にさえ当たり散らすことが多いようで。
情緒不安定過ぎて、恩を仇で返すようなことになってしまっているそう。
母親は懸命にオフェリガートの世話をしているのだが、たびたび暴れる彼のせいで身体にも心にも傷が増えるばかりだそうだ。
◆
婚約破棄から二年半。
私は今、裕福な家の生まれの人と結婚し、美しい花畑を毎日見ることができる海の近くの屋敷で暮らしている。
◆終わり◆




