ありふれた夏の日、絶望に突き落とされました。けれども、行く道の先には、良き出会いもありました。
それはありふれた夏のある日。
「なぁ、フィネ」
「何?」
「実はさ、ちょっと、言いたいことがあって」
私フィネは今日も婚約者ルルスと二人でサンドイッチを食べている。
場所は彼の家の前にある庭。
ここはこれまでよく二人で過ごしてきた場所。
私たちは幼い頃に出会った。そして婚約にまで至ったのだ。意外なことに未来を誓い合う関係となった。その時は、もうすぐ来る。今はまだ婚約者同士だけれど。
「婚約のことなんだけどさ」
「うんうん、何?」
「破棄……することにしたんだ」
「え」
時が止まる――かのような感覚。
「え……あ、あの、何それ……!?」
「いや、べつに、初めからこう言うつもりはなかったんだよ。ただ、さ。婚約は破棄したいと思うようになったんだ」
「どうして?」
「……好きな人ができてしまって、さ」
剣が飛んできて胸を貫く。
そんな感覚がある。
おどろおどろしい色に胸の奥が染まる。
「ごめんな、フィネ」
謝らないで。
優しさを発さないで。
せめて一撃で仕留めてほしい、そうでなければ、この苦しさがいつまでも続く――それだけはどうにか避けたい、辛すぎるから。
「そう……そっか、分かった。昔からの仲良しだったから何となく婚約したんだもんね」
「そうそう」
「……うん、じゃあ、幸せにね」
夏が冷えてゆく。
そして心も。
もう戻らない、あの穏やかな時間は。
◆
あれからは泣いてばかりだった。
毎日悲しくて。
毎日辛くて。
胸が痛くて、笑うことなんてできなかった。
大切なものを突如失う――それはその時の私には辛すぎることだった。
でも、ある時、出掛けた先で一人の青年と出会った。
彼はとても明るい人で。
その陽気さに心を奪われて。
それからは少し心に日射しが射し込むような感じがするようになった。
彼といればここに光を取り戻せそう、そう思って、私は定期的に彼と会うようになっていった。
そして、その出会いから数年、私は彼と結婚。
あの婚約破棄から五年近く経った今も、明るくユニークで前向きな彼と夫婦として一緒に生活している。
稀にはすれ違いもあるけれど。
それでもすぐに仲直りしてまた前へ。
そうやって深まる絆。
私たちはこれからも前を向いて生きてゆける。
ちなみにルルスはというと。
私を捨てた直後、親しい女性と出掛けていると雨に降られ木の下で雨宿りしていたところ雷に打たれ、死亡したそうだ。
切ない物語だと思う。
せっかく愛を貫けたのにその直後に亡くなるなんて。
けれども私は彼を可哀想とは思わないし言わない。
だって私は切り捨てられた側。
身勝手に切り捨てた彼に同情することなんてできない。
◆終わり◆




