誰も愛さねぇと貴方は言いましたが、私は今、『女神』として愛されています。残念でしたね、貴方は間違っていたのです。
「てめぇなんぞ誰も愛さねぇよ。ってことで、婚約は破棄な」
婚約者アズレッドブールはある日突然そんなことを言ってきた。
時が止まる。
否、そんな気がする。
脳が追いつかない、そこまでのことを告げられるとは思わなくて。
「婚約、破棄……」
「ああそういうことさ」
「どうして……」
「いやだから言ったろ。てめぇは誰にも愛されない女なんだよ」
「そんな、こと」
「うるせぇな! 俺が優しいから付き合ってやってただけなんだよ!」
「酷いです……」
「事実を言ってるだけだろ。本当のことをわざわざ言って教えてやってんだよ、優しいと思えよ感謝しろよ!」
そんな風にして婚約破棄された晩、どうしても寝られなくて外へ出て川の様子を見に行った。すると突如大量の水が流れてきて、その水の塊に巻き込まれてしまう。流されてしまったのだ。
あぁ、もう死ぬのか――。
そう思ったけれど。
不思議と恐怖はなく。
なぜか、気味が悪いくらい、穏やかでいられた。
◆
「……ね、……ぶ? 大丈夫?」
「あ」
目覚めた時、私は、知らない青年の上から見下ろされていた。
少し幼い雰囲気のある顔立ちが印象的な青年だ。
男性にしては可愛らしい系統でもある。
「良かった! 気がついて!」
「私、は……」
「流れてきたんです! 川から!」
その後、青年リーフから聞いた話によれば、私が流れ着いた村は『女神』をあがめている独自の文化を持つ人たちの村だったようだ。
そして私はその『女神』として扱われることになった。
なぜなら川を流れてきたから。
伝わっている伝説の中の女神の登場とまったく同じシチュエーションだったそうだ。
「女神さま、いずれは……我が息子リーフと結婚していただきたいのです」
族長からはそう頼まれた。
◆
川を流れ村にたどり着いてから五年。
それまでは『女神』としてあがめられ大事にされ続けてきた私だったが、ついに、族長の息子で私の第一発見者でもあるリーフと結婚した。
それでも私は今も『女神』として扱われている。
それらの行動は村の平穏のためらしい。
私にはよく分からない部分もある。
それでも彼らの力になれるならそんなに嬉しいことはないので、私は今日も『女神』として生きている。
けれど、誰よりも私を愛してくれているのは、夫であるリーフだ。
そこは決して変わることのない部分である。
そうそう、そういえば、かつて私と婚約していたアズレッドブールは今はもう生きていないそうだ。
惚れた女性にプロポーズしたところ断られ、それだけではなく酷い言葉を大量に発されてしまい、そのショックで衝動的に死を選んだのだそうだ。
心ないことを言われる痛み、少しは理解できただろうか?
◆終わり◆




