勝ち誇ったように婚約破棄を告げていますが、私もそうしたかったのでちょうど良かったのですよ。
「お前みたいなぱっとしねぇやつと生涯を共にするなんぞ無理なんだよ! ってことで、婚約は破棄な!」
告げられる終わり。
けれどもこちらもある意味では同じ気持ちでいる。
「そうですね、それが良さそうです」
「はぁ!? 何だその態度!?」
婚約者ダービン、彼はかなり問題行動が多い。
毎日のように大量の酒を飲みすぐに裸踊りをするし、ちょっとでも気に入らないことがあるとすぐにきれてしまいには暴れて周囲の椅子やら何やらを蹴飛ばしことを繰り返すし、婚約者がいる身でありながらことあるごとに女性に声をかけて隙あらば一人でも多くひっかけようとする。
そんな彼と生きてゆけるか?
答えはノーだ。
彼はまるで自分から婚約破棄を突きつけてやったぞとばかりに誇らしげな顔をしているけれど、多分私の方が前から離れたいと思い続けていたと思う。
「婚約破棄だぞ!? 女性として価値がない、という証明だぞ!?」
「貴方の問題行動は皆知っていますから私が悪者にはならないでしょう」
現に、気にしてくれている人はたくさんいる。
あんな人でいいの? と言ってくれた人だっていた。
「では、さようなら」
「お、おい! 話を聞け! 気が早すぎ――」
「婚約破棄、なのでしょう?」
にやり、と、笑みを向けてやる。
彼は私に勝ったかのように思っていたみたいだがそれは勘違いだ。
「あ――」
「では失礼しますね」
彼の言葉など、もはや聞く気はない。
◆
その後私は友人の紹介で富豪の家で働けることとなった。
家事をするのは初めてで。
けれど先輩があれこれ色々教えてくれたので仕事内容を段々学習することができた。
そして、そのうちに、最も優秀とまで言ってもらえるようになる。
そんなある日。
用事で家にやって来ていた四十代くらいと思われる容姿の女性が声をかけてくれる。
「いつも頑張っているわねぇ」
「え……」
「あら、急にごめんなさいねぇ。びっくりさせてしまったかしら」
「あ、ありがとうございます!」
「ふふ。それでね、実はね、貴方に話があるの」
女性はシックな色だが華やかさのある衣服をまとっている。
「うちの息子と結婚しないかしら?」
女性は笑顔でそんなことを言ってきた。
「ああいえ、いきなりは失礼よね。まず一度会ってみていただけないかしら? 会うだけでも構わないから」
「は、はい。では」
「良かったわぁ」
こうして私は、よく分からぬまま、女性の息子であるガッツに会ってみることになった。
◆
あれから数年、私はガッツの妻となり、彼と彼の両親が暮らす家に入れてもらって生活している。
ガッツも、ガッツの両親も、心の広い人で。余所者の私のことも温かく受け入れてくれた。私を虐めたりはせず。私が分からないことは、ガッツの母親である女性がいつだって丁寧にそっと教えてくれた。
ちなみにかつて私を捨てたダービンはというと――恋人の女性にそそのかされて違法な商売に手を伸ばしてしまい、それがやがて地域の管理局にばれてしまい、犯罪者として高額な罰金に加えて労働刑を強制されてしまったそうだ。
ダービンは、乗せられたことで悪として捕まり、恋人の女性には素早く逃げられてしまい、で――踏んだり蹴ったりだったようだ。
少々気の毒だとは思うけれど。
でも乗せられた彼にも非はある。
これに懲りたなら、今後は、きっちり考えて行動するようにすれば良い。
◆終わり◆




