飲酒してばかりの婚約者と離れたいので、嫌われるために動くことにしました!
婚約者ローブゼンは飲酒してばかり。
朝から酒を煽り、昼前にはろれつのまわらないような状態になって、それでも夜中遅い時間まで酒を飲むことを続ける。
そんな人と結婚するなんて耐えられない。だってそんな人と結婚して幸せになれるはずがないではないか。幸せになれそうにない結婚なんて前向きに考えられるはずがない。幸せになれない道を自らの選択で行くことなど不可能だ。
しかし、この国において、女性側から婚約を破棄するというのは難しいことだ。
女性にはそこまでの権利はないのである。
そこで!
ローブゼンに嫌われるために活動を開始した。
ちょこちょこやらかし、彼を怒らせる。
それが私の人生の目標となったのだ。
普通では絶対しないようなやらかしを敢えて繰り返した。
そして、ついに、それが実る時がやって来る――。
「おい! おめぇとはもうやってけねぇ! うざすぎる! よって、婚約は破棄としてやらぁ!」
作戦が成功した。
嬉しい。
でもなるべく顔に出さないように気をつけて。
「そうですか、承知しました」
「分かったかぁ?」
「はい、分かりました。婚約は破棄ということですよね」
「泣いて謝るかぁ? そしたら考えてやっても悪くはねぇがぁ」
「いえ、結構です。それでは、これにて、失礼します」
一礼し、彼の前から去る。
ああ、こんなに嬉しいのはいつ以来だろう。
今ならどんなことでもできそうな気すらする。
そんな気持ちでいっぱいだ。
「お、おいいぃぃぃぃ!?」
叫ぶローブゼンの声が聞こえる。
けれど気にはしない。
もう振り返りはしない。
こうして私は酒飲みローブゼンから解放された。
◆
あれから数ヶ月、私は川で魚を獲っていて知り合った青年と結婚した。
「今日も川に行かないかい?」
「ええ、いいわよ」
「桶持っていくな!」
「釣り竿も忘れないでね、この前みたいに」
「だっはは、そうだった! 前やらかしたんだった! 気をつけないと~」
今は気が合う者同士楽しく暮らせている。
ちなみに、これは父から聞いた話なのだが、ローブゼンはあの後酒の飲み過ぎで内臓を悪くして亡くなったそうだ。
ある朝突然倒れて。
そのまま誰にも気づかれず落命してしまったらしい。
しかし、死んでしまっていてもなお誰にも気づかれないとは――少々切ない、お気の毒に。
◆終わり◆




