王女と婚約したからといって城内で好き放題するのはやめてくださいね? やめられないのなら、城から追い出すことになりますよ。
一国の王女である私――フィオネは、中級貴族の青年アイデンと婚約。
階級には少々差があったけれど、私はそんなものは気にするものではないと考えていたので、それによって嫌だとか結ばれたくないだとかは思っていなかった。
だが、婚約以降、アイデンの行動が急激に派手になった。
慎ましかった彼は、優しげだった彼は、どこかへ行ってしまった。
この世から消えてしまった。
今や彼は城内でうろうろしては侍女などに声をかけるような人だ――しかも、拒否した女性に対しては、自分が王女の婚約者であることを強調して言い脅しているらしい。
階級うんぬんは気にしない。
でも素行が悪いというのは大問題だ。
皆に迷惑がかかってしまう。
そんなことを知っていながら知らないふりをするなんてできるわけがない。
「アイデン、ちょっといいかしら」
だから私は動くことにした。
もう黙ってはいられない。
「何ですかぁ? フィオネさん?」
アイデンはまだ気づいていないようで――これから私が何を言おうとしているか。
「貴方、最近、侍女に声をかけて回っているそうね」
「えぇ? はい、でも、ちょっと遊ぼうと思ってるだけですよ?」
「迷惑行為よ、気づいてる?」
「迷惑、ですかぁ? んなわけないでしょ? みーんな喜んでるに決まってますって!」
呆れてしまう。
アイデンは自分を何者だと思っているのか。
何か大きな勘違いしているのではないか。
でなければ、迷惑をかけておいて喜んでいると思うことなんて、できるわけがない。
「皆、迷惑がっているのよ!」
「ええ~、それは照れてるんですよぉ~」
アイデンはまともに聞こうとしていないようだ……。
どう頑張っても話にならない……。
「いい加減にしなさい!!」
「え……」
「アイデン、貴方は皆に迷惑がられているの。私のところにまで話が来ているわ。もうこれきり、余計なことはやめて! ……やめられる?」
「やめる必要なんてないですよぉ~。だってさ! みーんなぁ、喜んでくれてますもんっ。褒めてくれていますもんっ」
もうまともな話はできそうにない。
ここまでか。
これ以上は彼とは無理そうだ。
「いいわ。じゃあ……アイデン、貴方との婚約は破棄するわ」
ここで終わりにしよう。
皆のためにも。
そして。
私自身のためにも。
「さようなら。これでお別れよ」
「え……」
その時になって声を震わせるアイデン。
「う、う、うううううう、嘘そそそそそそ! いやあああああああ! 嫌だよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
数秒後から彼は絶叫し始めた。
顔面は真っ青で。
まるで人間のそれでないかのよう。
「ちょっと、そこの貴方、彼を連れ出して」
「はい」
近くの警備員に頼んでアイデンを城から追い出してもらった。
「嫌だああああ! 助けてええええ! お願いしますお願いしますちゃんとしますしますしますううううう! ですからどうかああああ! お願いですうううううう! 許してくださいよぉぉぉぉぉぉぉ!」
その日の晩、アイデンは、一人とぼとぼ山道を歩いていたところ野生の魔獣に襲われて餌にされてしまったそうだ。
彼はもう戻らない。
二度とここへは。
否、この世界に彼が生きることはもうないのだ。
◆
あれから数年が経ち、私は、父の紹介で知り合った隣国の第二王子と結婚した。
私には兄がいるのでどのみちこの国の王となることはない。
だから他国の王族と結婚しても問題はなかった。
◆終わり◆




