そもそもこの婚約自体がほぼ貴方のためのものだったのですよ? なのにそのような裏切り行為、絶対に許せません。
この国の中で五本の指に入るであろう権力者の娘である私には、レイタタンという婚約者がいる。
彼とは親同士の話し合いによって婚約することとなった。
何でも、レイタタンの夢を叶えるために、彼の親が私の親に親戚となれるよう頼んだそうだ。で、一応話はまとまって、私とレイタタンの婚約が決定したとのことである。
しかしこのレイタタンという男、私との婚約によって希望していた職種に就けることが決定した途端私への接し方が雑になった。
それまでは紳士的に振る舞っていたのだが。
仕事が決まったその日から私への接し方はどことなくそっけなくなり、しかも、裏で他の女性と遊び回るようになったのだ。
これでは結婚しても夫婦としてまともにやっていけそうにはない。
そこで私は、彼が他の女性と遊び回っている証拠を収集し始めた。婚約破棄を切り出すにも、何をするにも、証拠が要る。なのでいきなり彼に直接言うことはしなかった。まずは彼を追い詰めるための証拠を集めた。
で、準備が整ってから、両親と私がいるところへ彼を呼び出す。
「レイタタンくん、実は、君に話があるのだ」
切り出すのは私の父親だ。
「君……我が娘を放って裏で何かしていないか?」
「え。な、何でしょう。心当たりがありません、義父さん」
「そうか。自らは言わない気か」
「あの、何でしょうか? 本当に、心当たりがないのです。何ですか? よければ教えてください」
父親は一枚の写真をばぁんとテーブルに叩きつける。
「これはどういうことなのだ!!」
その写真は、レイタタンが私ではない女性を連れてそういうところへ入っていっている姿が写ったものである。
「これ、偶々です。彼女とは仕事で会っていたのですが、彼女が途中で気分が悪くなったので、それで休憩所としてそこを利用したのです」
「ほう。これは偶々、か。一度きりの利用だというのか?」
「はい、もちろんです」
「……ここまできてまだ嘘をつくとは、な」
呆れたように言って、父親は証拠写真を十枚ほど出した。
先ほどの写真と似たような内容の写真だ。
ただし日は異なる。
見た感じ相手女性も複数人いるようだ。
「これらも偶々の休憩なのか?」
レイタタンはここにきて顔を青くした。
さすがに逃げられないと思ってきたのか?
だとしたら愚かだ。
もっと早く白状していればまだしも許される部分はあったかもしれないというのに。
ここまで嘘をつき続けたなら、もはや救いはない。
許される要素もない。
「ま、こういうことをしているようなので、そんな男に娘をやることはできんよ。ということで、レイタタンくん、君との婚約は破棄とさせてもらう」
父親の隣にいる母親も真剣な面持ちを保っている。
「ごめんなさいね。私たちも娘の幸せを願っているの。だからこそ、こういうことをする人と結婚させるわけにはいかないのよ。絶対に、ね」
こうして私とレイタタンの婚約は破棄となった。
レイタタンは私との婚約によって手に入れたものをすべて失うこととなった。
地位もそうだし、権力もそうだし、就くことになっていた職もそう。
彼はそれらすべてを失った。
そこに、さらに、婚約者がいるのに他の女性たちと関係を深めていた、という悪評が加わって……彼のイメージは以前よりも悪いものとなった。
レイタタンには多額の慰謝料の支払いが求められた。彼はそれを支払わず逃げようとしたために、私の父親の知人が多くいる悪事防止隊によって拘束された。そうして彼は更正施設へと送られることとなる。
以降、彼はずっと更正施設内で生きることを強制され、腐りかけの食事で長時間労働を乗りきらなくてはならないという奴隷のような扱いを受けていたそうだ。
また、レイタタンの家もまた、国で定められている家の格を二段階下げるという処分を受けた。
それによってレイタタンの妹は既にいた婚約者と別れなくてはならないこととなってしまったそうだ。
この国では家の格が違いすぎる家同士は原則結婚できないのである。
レイタタンの妹は仲良しだった婚約者と生きられないことに絶望して自ら死を選んだそうだ。
一方私はというと、「すぐに婚約とか結婚とかの話はしたくない」と私自身の意向で高等学園に入学。そこで数年勉強に使った後に、学園で知り合った男性と仲良くなって結婚。伝統ある家柄の子息でありユーモアがありつつも一緒にいてほっとできる彼と結ばれたことは、私の人生にとって、大きな幸福であった。
◆終わり◆




