魔力を持っていなかったために婚約者の母親から婚約破棄を言いわたされてしまいましたが……王子の妻となり前へ進んでゆきます!
「あなた、魔力を持っていないのでしょう? やはり……我が家には相応しくないと思うわ。いいこと? 我が家は代々魔法使いとして国に貢献してきた家、あなたのような魔力を持たない女が気安く入って良い家ではないの。ということで、うちの息子とあなたの婚約は破棄とするわ」
婚約者の母親である女性フィオニースはいきなり私を呼び出してそう告げた。
「婚約破棄、ということですか」
「そうよ。考えてごらんなさい? あなたは我が息子に相応しくないの」
「お、お願いです、せめてニックさんと話をさせてください」
「息子と? その必要はないわ。ニックも私と同じ気持ちでいるんだもの」
婚約者ニック、彼と話がしたかった。
たとえ切り捨てられる定めが変わらないとしても。
それでも彼と話し合いをしてから決めたかった。
けれど、フィオニースは、私がニックと話すことをもう許可しなくて。
「あなたは消えてちょうだい」
勝手に、一方的に、私を切り捨てた。
当事者であるニックと話をする機会は与えてもらえなかった。
「我が息子には偉大な魔力の持ち主が相応しいのよ、あなたみたいな貧相で無能な女性は相応しくないわ」
「でもニックさんは……」
「うるさいわね! なんにせよ、これは絶対的な決定よ。もう変わることはない。あなたはニックにあれこれ言えば何とか粘れると思っているのかもしれないけれど、それは間違いだわ。現実を理解なさい」
本当は聞きたかった。
ニックの真の気持ちを。
でもそれは叶わず、完全に終わってしまった。
◆
数年後、私は、ちょっとした出会いをきっかけに王子に惚れられて、彼と結婚することになった。
王子との結婚。それは誰も想像していなかったまさかの展開で。この件を明かした時には親戚にもかなり驚かれた。父方の伯父などは驚きのあまり転倒し危うく負傷するところだったくらいだ。
かつてのニックとの婚約は悲しい終わりを迎えてしまって。
けれども運良く新たな縁を得て。
私は飛躍してゆく、どこまでも広がる空のような広い世界へと。
◆
結婚から今日で三年。
私は今も王子の妻として生きている。
王子の妻という位に就いてからは慣れないこともたくさんあったしそれゆえの苦労もあった。けれども彼はいつだって私の隣にいてくれた。そして、温かく接し、どんな時も共に歩いてくれた。私が危ない目に遭いそうになった時にはいつだって身を挺して守ってくれた。
彼がいたからこそ、今の私がある。
私は魔力は持たない。
けれどもここでは一人の人間として受け入れてもらえる。
魔力がないだけで悪く言われることはない。
だから、ここで生きてゆくのは、悪いことだとは思わないのだ。
王子の隣で歩く。
たとえ道が険しくても。
それでも行く。
前だけを見据え、強く、足を進める。
手を取り合って行く未来にはきっと――光も、希望も、存在していることだろう。
ちなみにフィオニースは、あの後『無魔力保持者の人権を一部だけとする会』を発足し活動を続けていたそうだが、その活動内容が段々過激化していったことで次第に一部の無魔力保持者から目をつけられるようになっていったそうで――ある時、集会での挨拶中に刃物を持った中年男性に襲われて死亡したそうだ。
そして、息子ニックは、母親の活動を知る者から相手してもらえなくなったためになかなか結婚できないという目に遭うこととなってしまったようだ。
ニックは今は療養中ということで別荘に行っているそうだが、かなり情緒不安定であり、この時代において当たり前とされるような生活はできないような状態となってしまっているらしい。
◆終わり◆




