戦場へ出た婚約者は変わり果ててしまいました。私に当たり散らすばかりの貴方とはもうやっていけません。
婚約者プリトニットは変わってしまった。
「おい! 茶はまだか! 遅い!」
「は、はい。これで良いですか」
もとは優しくて面白い人だったのだ。
だからこそ婚約した。
共に生きてゆくのも良いだろうと思っていたのだ。
「違う! それは飲みたいやつじゃない! 馬鹿ッ」
「きゃっ。……お茶かけないでください」
「うるせえ! 間違ったお前が悪いんだ! 間違ったんだから、失敗したんだから、かけられて当然だろう! 当然の罰だ!」
けれど、彼は、数ヶ月戦場へ出た。国民の義務だったから仕方なかった、だから私は待っていた。仕方ないことだから反対もしなかった。
しかし、それから帰ってきた時、彼は非常に怒りっぽい人となっていた。
「淹れ直せ!」
「は、はい……」
以前のプリトニットは消えてしまった。
もう死んだも同然。
私が好きだった彼が戻ることはきっともうないのだろう――あくまで自分の勘でしかないが、なんとなく分かる。
「湯からだぞ!」
「……分かりました」
「一分以内に出せ!」
「それは……さすがに、ちょっと、難しい、かと」
「はぁ!? くちごたえすんな!!」
そんなに私が嫌いなら、婚約破棄でもしてくれれば良いのに。正直最近はいつもそう思ってしまう。けれど、彼は私を捨ててはくれない。当たり散らすことしかしないのに、関係は切らないのだ。
「ったく、クソみてえな女だな。イライラすんなぁ。馬鹿女の親はきっと馬鹿面なんだろうなぁ」
これまでは耐えてきた。
でも、もう――。
「プリトニット、もう終わりにしましょう」
我慢にも限界がある。
私だって人間だ。
当たり散らされるために生まれてきたわけじゃない。
「はぁ?」
「婚約、破棄するわ」
怖かった。
でももう言わずにはいられない。
だってもう耐えられないから。
「何言ってやがる!!」
「婚約は破棄する……そう言っているの」
「馬鹿言うな!!」
「イライラするのでしょう? 私たち、別れた方がいいわよ。そうすれば貴方だってイライラせずにする、きっと幸せになれるわ」
そう告げ、走り去る。
すべて終わってしまった。
すべて壊れてしまった。
いや、私が叩き壊したのだ。
それは恐ろしいことではあるけれど、それでも、あの地獄から私を救うためには――あれを言うしかなかった。
◆
私はあの後親に相談しプリトニットとの婚約を破棄することに成功した。彼は激怒して何度か実家へ殴り込みに来たけれど、父と父が雇った警備兵が対応してくれたので、被害は受けずに済んだ。で、そのうちにプリトニットは迷惑行為常習犯として有名になり、最終的には近所の人たちの通報もあって地域の警備隊に拘束された。そして後に処刑されたそうだ。
一方私はというと、東国の生まれだと話す同じ年の青年とある趣味関連のイベントにて知り合い、結婚するに至った。
彼は両親と共にこの国に住んでいる。
生まれが他国なだけ。
そして生まれた国へ帰る気もまったくないようで。
そのため彼とこの国で結婚することは難しいことではなかったのだ。
◆終わり◆




