価値などない、ですか? よくそのようなことを言えますね。言われた者の気持ちを少しくらい考えてはどうなのですか? ま、無理でしょうが。
「君のような地味で華やかさがなく忠実でもない女、価値などない! よって、婚約は破棄とする!」
その日が来るまでは、幸せな未来を夢みていた。
だがその夢を彼は壊した。
婚約者エルビンは。
「え、あ、あの! 待ってください! いきなり過ぎます!」
「何だと? 調子に乗るな。決定権は男である俺にある。君に意見する権利はない」
「で、ですが、婚約は契約です。破棄するのなら、それ相応の理由が必要で……」
「理由ならもう言った!」
この時のエルビンは、私が生きてきてこれまでに出会った誰よりも、心なかった。
「地味で華やかさがなく忠実でもない女、価値などない。だからだ」
聞かれれば何度でも言うさ。
彼はそう呟く。
もう終わってしまったのだ――分かれば分かるほど、切なく、辛く。
胸が締め付けられるような感覚がある。
それでも彼に縋りつくことなどできず、ただ、見ていなかった未来への道へと身を移す外ない。
終わったのだ、エルビンとの日々は。
◆
婚約破棄後、実家へ戻った私は、庭で野菜を育てることを開始した。
両親はそんな私を温かく受け入れてくれた。
そのおかげもあって、私は、心病まずに生きてゆくことができた。
失ってしまったものが戻らないなら、新しい未来へと目を向けよう。そして、今まだ失っていないものを、これまで以上に大切に抱こう。
そう思って、野菜を育てた。
◆
そんな風にして過ごし一年ほどが経過した、ある日。
その日も当たり前のように土いじりをしていた私は、勉強の一環で地方を巡っていると話すリベイア王子に声をかけられた。
「貴女は……貧しくはなさそうですが、なぜ土いじりを?」
不思議そうに問ってくるのはリベイア王子。
「ええと、これは、趣味で」
「趣味?」
「はい。野菜を育てているのです」
「食べ物に困っている……から、では、なくてですか?」
「はい」
その時はそれだけ話して別れたのだけれど――数日後、王家のマークが入った封筒が届き、それはリベイア王子からのプロポーズの手紙だった。
一家で衝撃を受ける。
まさかの展開過ぎて。
私でさえ信じられなかった。
◆
あれから二年、私はリベイア王子と結婚した。
ここへ来るまで驚きも少なくなかったけれど。
でも今はこの道を選んだことを良くなかったとは思っていない。
ちなみに、かつて私を切り捨てたエルビンはというと、食糧難による暴動に巻き込まれて大怪我を負い、その傷が原因となって数日後に死亡したそうだ。
彼は最期ずっと「こんなことで死にたくないぃ」と嘆いていたらしい。
◆終わり◆




