悪女呼ばわりして婚約破棄を告げてきた婚約者は、母と姉の嘘を信じたために多くのものを失うこととなったようです。
「お前のような悪女と生きてゆくことはできない! よって、婚約は破棄とする!」
その日、お茶会の会場にて、私はそう告げられた。
周囲に広がる控えめな笑みの色。
私と婚約者オレッスを見ていたお茶会参加者の女性たちはくすくすと笑うのみ。
「悪女? 一体どうして、そのような話に?」
一応尋ねてみると。
「お前は裏で我が母と姉を虐めていたのだろう! くだらん、知らないふりをするな!」
オレッスは大きな声を発する。
虐めていた?
知らない。
彼の母や姉に対して失礼なことをしたことはない。
嘘か勘違いではないのか?
そうでなければ――おかしい、としか言い様がない。
「虐めていません」
「はぁ!? なら我が母と姉が嘘を言っているとでも言うのか!?」
「恐らく嘘か勘違いかと」
するとオレッスは近くに置かれていたティーパーティー用のテーブルをばぁんと荒く一度叩いた。
「母と姉の飲み物に虫を入れておいて! よく! そのようなことが言えるな!!」
虫?
悪いが、そんなこと、私にできることとは思えない。
だって私は虫が嫌いなのだ。
特に昆虫は見かけるだけでも悲鳴をあげる勢いで当然触れない。
ちなみに、それは有名なこと。
私が虫を嫌っているのは多くの人がよく知っていることだ。
飲み物に虫を入れ――オレッスらの過ちは、誰もが知っていることを考慮せず嘘を言ったこと。
「ラベリーちゃんって虫嫌いなんじゃなかったっけ」
「前泣いてたわよね」
「触るどころか近寄るのも無理って言ってなかった?」
やはり、皆、薄々勘付いてきているようだ。
オレッスの母姉が嘘をついているということに。
「まさか……虐められたとか嘘なんじゃない」
「だよねだよねー、怪しいよー」
「それに、そもそも、ラベリーちゃんって虐めとかしないタイプだしね」
こうして私は婚約破棄されてしまったが、その時周囲にいた人たちが「オレッスの母姉の話は不自然な点が多い」と意見を発してくれたことで、私が虐めなどしていないことを世の人たちに理解してもらうことができた。
おかげで、名誉を穢されることはなかった。
婚約破棄は変わらなかったけれど。
それでも私の評価は守られ。
逆に、分かりやすい嘘をついたオレッスの母姉が恥を掻くこととなった。
◆
その後私はとある小規模ティーパーティーにて知り合った二つ年上の男性と結婚した。
彼と結婚してから数年が経った今でも、私たち二人は仲良し。
親友のように、恋人のように、寄り添いあって暮らしている。
「ただいま! 今日さ、クッキー作ろうと思って! キッチン借りてもいいかな? ラベリーさん」
「いいわよ」
「あ、ちゃんと片付けるから!」
「ああそのことね。ま、よろしくね」
「今日もラベリーさんに気に入ってもらえるように頑張って作るから!」
「はーい」
ちなみに、オレッスの母姉は、婚約破棄の一件以来一部の過激な人たちからやたらと批判されるようになってしまったそう。中には、家に押しかけてきて怒鳴ったり火炎瓶を投げ込んだりというようなことをする人もいたらしい。で、そういうことを繰り返された結果、二人とも心を病んでしまったそうだ。
「お皿ある?」
「そこの棚」
「あ! これか!」
「そうそう」
「良かったー、ありがとう!」
で、オレッスはというと、多くの女性に「彼の母と姉は嘘で婚約者を陥れようとするような人」と知られてしまったために誰からも相手にされなくなってしまったそうだ。
その結果、女性と仲良くなりたいにもかかわらず仲良くなれず、すっかり落ち込んでしまっているらしい。
◆終わり◆




