妹に勝手に婚約者を交換されました。が、時が経った今、あの時交換になっていて良かったと思えています。
「お姉様! 婚約者を交換しましょ!」
甲高い声で妹ミミィからそう告げられたのはある日の昼下がりだった。
「え……ちょ、ちょっと待って、どういうこと?」
「だ! か! ら! 婚約者を交換しますの。馬鹿ですの? こんな簡単なことさえ理解できないなんて」
私と妹にはそれぞれ婚約者がいる。
つまりは、それを取り換えるということか?
「いきなり過ぎるわ、そんな……」
「ま、お姉様が何を言っても無駄ですわ。だってもうそういう話で通っていますから」
「そうなの!?」
「ええ。わたくし、もうハリー様と婚約しましたのよ」
「ええっ!!」
「信じられないのならハリー様に聞いてみればどうですの? うふ」
ハリーは私の婚約者だった。いや、今もそうだと思っていた。でもいつのまにかそれは変わってしまっていたようで。妹のものになってしまっていたようだ。ハリーと私の婚約は勝手に破棄とされていた。
「ま、お姉様はオルガンと仲良くなさって? あいつはパッとしない地味男ですけれど。お姉様にはぴったりと思いますわよ」
パッとしない地味男と下げておいて私にぴったりと言うなんて……どこまでも嫌みだ。
だがそうなってしまったものは仕方ない。
次のことを考えようと思う。
そして、今手にできているものの中から幸せを見つけようと、そうも思う。
手に入れられないものを望まない。
大抵その方が良い結果になる。
◆
「初めまして、オルガンです」
思わぬ形で私の婚約者となった男性オルガンは、平凡という言葉が似合うような容姿の人物ではあるけれど、まとっている雰囲気が柔らかで優しげで――対面した時の印象は悪くなかった。
「こちらこそ初めまして」
「貴女はミミィさんのお姉様だそうですね」
何も分からないままでの出会い。
けれども嫌な感じはしなかった。
「あ、はい。そうなのです」
「色々申し訳ありませんでした……自分がミミィさんの期待に応えられなかったためにこのようなことになってしまい……」
「やめてください! 頭を下げるなんて! 貴方は何も悪くありません!」
「え……」
「あ、す、すみません。つい大きな声を」
それから少しして、笑い声をこぼしてしまう。
なぜだか愉快になって。
目を合わせるたび、以前からの知り合いであるかのように笑うことができた。
◆
その後結婚した私とオルガン。
私たちは幸せになれた。
「自分と結婚してくれてありがとうございます」
「こちらこそありがとうございました」
「今日で……結婚してもう二年ですね」
「ええ! そうですね」
時が流れても、私たち夫婦は今も仲良しのままだ。
「早いといいますか、何といいますか……でも、貴女と出会えて良かったと迷いなく思えます」
「オルガンさんのことが愛おしいです」
「ふやぇっ!?」
顔を真っ赤にするオルガン。
「え……だ、大丈夫ですか?」
「すみません驚いてしまって……」
「ふふ、オルガンさんは面白いですね」
私はかつてハリーを失った。
妹ミミィが奪うように交換していったからだ。
でも、正直、今はオルガンと一緒に生きられて良かったと思える。
一方ミミィとハリーは幸せにはなれなかったようだ。というのも、結婚してすぐハリーの実家に借金があったことが判明したそうで。借金があるだけでも問題だが、秘密にしていたために事がさらに大きくなり、二つの家は大揉めになってしまったそう。そして二人は離婚にまで至ってしまったそうだ。
ミミィはハリーを無理矢理奪い取った。
けれども幸福は掴めなかった。
望む人と生きる道を無理に作ってもその道は幻のものでしかなかったのだ。
私と妹、二人の道は真逆のものとなった。
◆終わり◆




