普通に平凡に生きてゆくものと思っていたのですが、婚約破棄を機に人生は大きく変わってゆくこととなりました。
普通に平凡に生きてゆく。
そういうものと思って育ってきた。
けれども、そんなある日。
「君との婚約、本日をもって破棄とする!!」
十八の頃に知人の紹介で婚約した婚約者オウロリンガンが突然そんなことを言ってきた。
「え。あの……どうして、ですか」
「君は花が好きだな?」
「はい……」
「はじめは可愛いと思っていた。だが、君は僕より花を愛しているようではないか。それに段々耐えられなくなってきたんだ」
オウロリンガンはきちんと説明してくれた。
花が好きだから?
花が好き過ぎるから?
……それが理由だとしたら、仕方ない、と思う部分はある。
私は花が好きだ。それは事実。どこまでも花を愛している。だから私はいつまでも花を愛でていたいし、それを拒否されたらその人とは上手くやっていけないような気がする。
「ま、そういうことだ。だから、さようなら」
「……本気、なのですか?」
「ああそうだ。僕は決して嘘はつかない、本当のことしか話さない」
「そうですか……そう、ですよね。承知しました」
オウロリンガンとの関係は終わってしまった。
◆
あの婚約破棄から十年、長く花を育て続けていた私はある特別な種の花を発見した。そして、その花に特別な効果があることが発見され、不治の病を治すことができたということが判明した。
私がその花を発見したために、多くの人たちが不治とされていた病から回復することができたのだ。
それにより国王から評価され、褒美のお金を貰い、称賛してもらうことができた。
私が国からお金を貰ったことを知るや否やオウロリンガンが再び近づいてきて「もう一度やり直そう」とか「一緒に生きていきたいと思い始めた」とか言ってきたけれど、それは断った。
金目当てと分かっていたからだ。
そもそも、彼が、私の花好きを嫌がったのではないか――そこを今さら変えられても困ってしまう。
私は生涯誰とも生きないとは思っていない。けれどもオウロリンガンと生きてゆく気はない。彼は一度私を一方的に捨てたから。そんな人だから、彼のことを信じることなどできないのだ。一度裏切られ捨てられた、そんな状態では付き合ってはゆけない。また、生涯を共にするとなると、なおさら無理である。
それに、私はまだ花を愛でることをやめる気はないのだ。
◆
三十歳になる前の日、私は、同じ花好きの男性と結ばれた。
彼は三つ年上。
彼もまた長年花を愛でてきていたようだ。
だからだろうか、私たちはとても気が合った。
「昨日、例の花、咲いたよ!」
「え!」
「見に来てくれない~?」
「見たい!」
私と彼は別々の場所でそれぞれ花を育てている。
互いのテリトリーには踏み込まないというのが掟のようになっているのである。
けれども互いのことに興味がないわけではない。
何なら自慢し合うことだってある。
この独特の距離感が好きだ。
「わぁ! 綺麗!」
「ぐふふ、嬉しいな~」
「私ももっと育てたい! 負けない!」
「競わないでよ~」
私はこうして幸せになれたが、一方で、オウロリンガンは残念なことになってしまったようだ。というのも、彼は、やってはならない方法で儲けて金持ちになった家の令嬢に恋をしてしまったのだそうだ。で、彼女と付き合っていくうちによろしくない世界に踏み込んでしまい、事件に巻き込まれてしまったようで。
それで、オウロリンガンは、気づけば多額の借金を背負わされることとなってしまったそうだ。
だが、そんなことはもう、どうでもいい。
私は愛する人と穏やかに生きてゆく。
それだけでいい。
それだけで満足だ。
花を愛し、夫を愛し、生きてゆこうと思っている。
◆終わり◆




