親からの圧で仕方なく婚約した元冒険者でしたが、婚約破棄されたので、冒険者に戻ることにします!
私は子どもの頃から運動が好きで、近所の先生から剣術を習い、十五歳の誕生日から冒険者としての活動を始めた。というのも、この国では十五歳から冒険者になることができたのだ。私は十五歳になってすぐに勝手に役所へ行き、そこで手続きをして、冒険者への道を進んだのだ。
それから数年、毎日のように戦った。
ある日は深い森へ。
ある日は洞窟へ。
毎日出掛け、剣を手に戦い、多くの魔物を倒した。
これでも年のわりには活躍していたのだ。
だが皆が異性と結ばれるような年代になると、急に慌て出した両親が冒険者として生きることを妨害してくるようになって。しまいには、冒険者の証である証明書を勝手に国に返却されてしまった。両親は私に一人の男性を押し付け、強制的に婚約させた。
それが、私とブルーレスの婚約である。
以降私は戦いから離れることとなる。
けれども、ブルーレスとの関わりにおいては、私がこれまでしてきたことが邪魔になった。
「うちの息子の嫁、元冒険者なのよー。野蛮で嫌だわー」
ブルーレスの母親は私を良く思っておらず、ことあるごとに愚痴のようなことを言いふらされた。
幸い、あからさまに虐められることはなかったけれど。
でも何とも言えない複雑な気持ちだった。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに、なんて思ってしまうこともあって。
◆
その日、私はブルーレスに呼び出された。
彼が私を呼ぶなんて珍しいこと。
婚約してから数えても一回か二回くらいしかなかった気がする。
「あのさ、悪いんだけどさ、君との婚約は破棄するわ」
ブルーレスははっきりとそう言ってきた。
正直ショックはあった。だって、私は、この婚約のためにすべてを捨ててきたのだ。夢もやりたいことも駄目になって、代わりに得たのがこの婚約。それまで失われてしまうなら、今まで色々捨ててきた意味は何だったのか。私はこれまで何をしてきたのだろう、と、少々虚しくなってしまう。
「本気なの?」
「もちろん、本気の時しかこんなこと言わないよ」
「そう……」
「だってさ、君みたいな野蛮な女を妻にするなんて、男なら誰だって嫌だろう?」
野蛮、か。
きっと母親から色々吹き込まれているのだろう。
「そうね。分かった、じゃあ……そういうことで、さようなら」
私は婚約破棄を受け入れることにした。
彼に嫌なことを強要するのは嫌だったから。
彼がどうしても私と離れたいのなら、私はそれで構わない。
ただ、私は私で自由を掴ませてもらおうと思う。
ブルーレスとの関係が終わったと理解した私は、実家へ戻ることは選らばず、冒険者として再び生きていくことを決める。
戦いは得意だし、冒険者が何をするのかというのは熟知しているから、他の仕事に就くよりかはやりやすいだろう。
「……そうだ、役所で手続きしなくちゃ」
落ち込んではいられない。
前へ進まなくては。
◆
まずは役所へ行き冒険者として活動するための証明書を再発行してもらわなくては。
「はい、はい、レガーナさんですね。はい、以前の記録が残っております。証明書を再発行しますね」
「ありがとうございます」
「そういえばレガーナさんって……以前も熱心に活動されていましたよね」
受け付けの女性は私の顔を覚えていてくれたようだ。
小さなことだけれど、意外と嬉しい。
「はい、これで問題ありません」
「今日はありがとうございました」
「いえ! お気をつけて」
「感謝します」
これで冒険者に戻ることができそうだ。
ある意味、ここが出発地点とも言える。
一度はすべて失ったけれど、婚約破棄してもらえたおかげでここへ帰ってくることができた。そういう意味ではブルーレスにも礼を言いたいくらいだ……もっとも、それは八割がた嫌みだけれど。でも、彼のおかげというのも嘘ではない。彼が私を愛していたら、この世界へ戻ってくることはできなかった。
こうして、冒険者レガーナは復活した。
◆
あれから数ヵ月。
ここしばらくは一人の少年と共に活動している。
「レガーナさん、すみません、いつも足を引っ張ってばかりで」
「いいのよ。貴方は頑張ってるわ」
少年の名はポトト。
彼と出会ったのは西の洞窟だ。
チームの皆に虐められていた彼は仲間はずれにされて洞窟内に置いていかれてしまって困っていた。あまり強くないのにひとりぼっちで魔物に襲われていて、そこを私が助けたことから、彼と知り合いになった。で、それ以降は一緒に戦っている。
「それに、貴方の支援技は素晴らしいわ」
「え……そ、そう、でしょうか」
「いつも助かっているの、ありがとう」
「え、っと……その、照れますね」
私と彼はとても良い関係を築けていると思う。
◆
冒険者生活再開から六年、私は共に戦ってきたポトトと結婚した。
ブルーレスの時は冒険者ゆえに嫌われた。でも今回は違う。ポトトは私が冒険者であることを悪くは言わないし、むしろ冒険者であることを喜んでくれる。今回は私がしていることを理解してもらえている。
だから上手くいくと思う。
「これからも一緒に生きていきたいわね」
「はい! よろしくお願いします!」
「もう、いいのよ、そんなの。楽にしていて」
「ムリデス……」
ちなみに、かつて私を野蛮と言って切り捨てたブルーレスは、一年ほど前に魔物の襲撃に遭い亡くなったそうだ。
これはその時戦っていた冒険者の知人から聞いたことである。
魔物に食べられそうになったブルーレスは、「あの女を置いておけば……助かったかも……しれない、のに……」と言って鼻水を垂らしながら、最期を迎えたそうだ。
そしてブルーレスの母親はというと、魔物の巣へ誘拐され、数週間後骨になって発見されたそうだ。
気の毒には思うけれど、でも、冒険者を嫌っていたのだからそうなっても仕方ない部分はある。それに、彼女とて嫌いな冒険者に助けられたくはなかっただろう。たとえ死ぬとしても。
そういう意味では、お互い良かったのかもしれない。
◆終わり◆




