大嘘つきの妹を持つ婚約者が嘘を信じて婚約を破棄してきました。~愛を捨てることにした私でしたが、まさかの、結ばれました~
「フリューシア! お前のような悪女とは付き合ってゆけぬ! よって、婚約は破棄とする!」
実の妹の嘘を信じ込んだ婚約者ギュルカエルが突然宣言した。
あるお茶会でのことだ。
穏やかな日は彼の宣言により一瞬にして穏やかでない日に変わってしまったのだ。
「可哀想に……あんなこと言われて……」
「気の毒よね」
「そもそもあの人、ちょっと……思い込みが強いところがあるから……」
「ほんとそれっさぁ」
周囲の人たちは私を悪くは言わなかった。
それでもとても居づらくて。
会場内に居続けることはできず、私は自ら去るしかなくなってしまった。
――もう二度と誰も愛さない。
その日私は決意した。
心を固めた。
ギュルカエルのことは嫌いじゃなかった、いや、むしろ好きなくらいで。愛している、と言うには足りないかもしれないけれど、そこそこ愛おしく思っていた。だから、いろんなことに遭遇しても共に乗り越えてゆけるだろうと、そう思っていた。
でも彼は一瞬で私を捨てた。
妹の嘘を信じて。
話が事実かどうかさえ聞かず。
嘘の剣で私を断った。
――もう誰にも心を向けたりはしない。
それは決意だった。
◆
ギュルカエルとの婚約が破棄となった日から、今日で六年になる。
あの日と同じ、穏やかな日だ。
天候も、気候も、ほどよく心地よい時期である。
結論から言おう――私は今、ライティという青年と結婚している。
もう二度と誰も愛さない、そう決めて生きていた私の心を掴んだのは、他の誰でもない彼だった。
ライティは巧みだった。
何の迷いもなく私に近づき、純粋な目をこちらへ向けて、私の心をその両手でそっと包み込んだのだ。
ちょろい――そう言われても仕方ないとは思う。
けれども私はライティと生きることを選んだことを間違いだったとは思っていない。
彼は私に多くのものくれる。
知らなかった感情を多く教えてくれた。
そしてこの先も。
きっと今はまだ知らない世界を見せてくれるのだろう。
彼という案内役となら、私はどこへだって行きたい。
そうそう、ギュルカエルはというと、あの後妹の嘘を信じたことで仕事で大失敗してしまったそうで、巨額の借金を背負うこととなってしまったそうだ。で、趣味で集めていたものなんかはもちろんのこと、住んでいた家までも売らなくてはならなくなってしまったそう。その結果、野宿するしかない状況に追い込まれてしまったそう。そんな暮らしを数ヶ月続けていたそうだが、後に、家もないままで生きてゆくことに疲れて自ら死を選んだらしい。
また、すべての元凶である彼の妹は、領地持ちの家の子息に迫って何とか結婚しようとしたそうだが、もうすぐ婚約できるというところで嘘がばれたために捨てられたそう。
だがそれでも彼女の嘘つきは治らなかったようで。
彼女は泥をすすりながら生きていくこととなったようだが――それでも、いつまでも嘘をついていたみたいだ。
◆終わり◆




