私を手放して良いのですか? 我が魔法がなければ貴方の商売は終わりますよ? ……ま、好きにすれば良いですが。
「お前みたいな魔女とはもうやっていけねぇよ。だからさ、婚約は破棄することにするわ」
婚約者リボールはそんなことを告げてくる。
関係を断つ。
関係を終わらせる。
そんな言葉を彼は平然と発した。
しかも、そんな彼の傍らには、背の低い小動物的な雰囲気の女性が一人いて、勝ち誇ったようにこちらを見てきている。
女性は明らかに挑発的だ。
恐らく私からリボールを奪えて嬉しいのだろう。
そんな顔をしている。
私も女だから、女性の表情からその心の内を読み取れるのだ。
「魔女、って……リボール、何を勘違いしているの? 私はただ魔法を使えるだけ、貴方だってそのことは知っているでしょう。私が悪い魔法使いでないことは知っているでしょう? ずっと魔法で貴方の商売に協力してきたのだから」
そう、私は、リボールの商売を上手くいかせるために協力してきたのだ。
もちろん違法なことはしていない。
ただ、法に触れない範囲で、魔法を使って力になれることがあればそのたびに力を貸してきたのだ。
自分で言うのも何だが……彼の商売が上手くいっているのは私の魔法があってこそなのだ。
「うるせぇ、もうお前はどうでもいいんだよ」
リボールはもう私に優しい眼差しを向けはしない。
彼はもう私を大事とは思っていないのだろう。
今の彼の目を見ていれば分かる。
「勝手ね」
「彼女を愛してるんだよ! 彼女が可愛いんだ! 好きなんだ! ……そのくらい自由にさせてくれよ」
ごねている様は子どものよう。
「ならもう協力できなくなるけれどいいのね」
「いいさ!! 愛のためならすべてを捨てる!!」
愚かな人。
そう思わずにはいられない。
私の魔法がなければ今ほど設けることはできないというのに。
それでも愛を取るのか。
私という人間を捨ててまで。
◆
あれから数ヶ月、リボールの商売は急激に悪い状況となり、多額の借金だけが残る状態となってしまったそうだ。
彼は今、借金取りに追い掛け回される日々らしい。
で、あの女性は、借金取りに誘拐されたらしい。
きっと今頃売り飛ばされているのだろう。
そういう話はよく聞く、この国では珍しいことではない。
彼はもう愛する人と生きられない。
それどころか胸を張ってまともの生きることさえできないのだ。
怯えながら生きてゆく。
きっと辛い日々だろう。
生きれば生きるほど苦しみは積み重なってゆくというものだ。
ま、私を手放したのは彼だから。自業自得なのだけれど。
◆
あれから八年、私は今、高位貴族の妻として生きている。
二人の子にも恵まれ。
穏やかな幸福を手に入れることができている。
◆終わり◆




