婚約破棄後、彼はこの世から去り、私は多くの子孫に恵まれました。
長い髪は金色、絹糸のような煌めきで、生まれて今日まで多くの人たちから称賛されてきた。
私の髪は女神の髪と呼ばれている。そのくらい、他者を越えて美しく煌めいているようで、私自身褒められているうちにそのことを自覚するようになっていった。
とはいえ、常に謙虚であろうと決めていたので、威張り散らしたりプライドを高く持ちすぎたりはしないようにしているけれど。
そんな私だったけれど。
すべての人に良く思われるわけではなかったようで。
まさかの展開に遭遇することとなる。
それは本当に一切読んでいない展開であった。
「婚約、破棄するヨ」
婚約者オーレイ・ドッフェセイがさらりと告げてきたのは、ある夏の日。
「え……婚約、破棄、ですか!?」
「ああそうだヨ」
「なぜ……」
「美しいけど飽きたから、それだけってことヨ」
まさかの展開に驚いていたまま、私は彼に捨てられた。
◆
数日後、オーレイが何者かに殺められたことを知った。
彼はある夜「少し散歩してくる」と言って自宅を出ていったきり戻らず、親が捜索願を出して待っていると山で亡骸となって見つかったそうだ。
その亡骸の胸もとには一輪の赤い薔薇が置かれていたそうだ。
◆
今年、私は、六十八歳になった。
誕生日は美しい金髪を持つ多くの子や孫に囲まれて楽しく過ごせたが――その日ももう過ぎ去り、今日はまた平凡な日だ。
でも、平凡な日さえも、私にとってはとても幸せな日。
長生きできている。
それだけでも幸福なのだ。
◆終わり◆




