雨降りの日に飽きたと言われ婚約破棄されましたが、その直後に良い出会いがありました。
私が暮らす街には大きな湖がある。
とても美しいそれは、どこまでも広く、まるで海のよう。
私はその湖が好きだった。
水面を眺めていると胸がときめく。
それは独特な感覚で。
ずっと湖を見つめていたい、そう思って育ってきた。
◆
「お前との婚約、本日をもって破棄とする」
婚約者リィガンにそう告げられたのは、ある雨降りの日だった。
その言葉を聞いた時、心を槍で貫かれたかのような感覚があって、暫し何も言えなくなってしまった――心が動けなくなってしまったのだ。
「黙って何がしたい? 何か言えばどうだ? 一言くらい発せよ」
何も言えない。
何も発せない。
ただ、体中の筋肉が、微かに震えている。
「おい! なぜ何も言わない!?」
「……ぁ」
「あ?」
「あ、の、どうして婚約破棄、なんて……?」
「ああ、それか。なら簡単なこと。お前に飽きた、それだけのことさ」
信じられない。
それが理由?
そんなことで婚約を破棄するのか。
「飽きた……」
意味もなく呟く。
「ああそうだよ。だから、慰謝料の支払いは求めない。優しいだろう? 感謝してくれよ」
切なくて、悔しくて、雨降りの中を走った。
湖へ向かう。
そして、湧き上がる感情を塗り潰すように、湖へ飛び込む。
水が冷たい――でも心地よい、終わりにはちょうどいい。
そこで死んでしまおうと思った。
また、消えてしまおうとも。
そうすれば大丈夫だから、そうすればあれこれ言われることもないから。
けれど。
「うわわわわ! 大丈夫ですか!? 待っててください! 今すぐ助けますから!!」
勘違いした通行人の青年リットに救助されてしまった。
「あ……そうなんですか……溺れていたわけではない、ですか……」
「そうです」
「でも! 死のうなんて、駄目です! 駄目ですよ!」
「……放っておいてください」
「何があったのか知りませんけど、命を無駄にはしないでください!」
◆
あれから三年、私はリットと結婚し、一児の母となっている。
「いやぁ、懐かしいですよね、あの時の話」
「湖の?」
「そうそう! それ! びっくりしましたよ、溺れてるーって!」
「ごめんなさいね」
「あ! いえ! そういう意味ではなく!」
一度は命を捨てようとした私は幸せになったが、それとは対照的に、人を身勝手に切り捨てたリィガンはあの後顔が日に日に膨らむ謎の病にかかったそうだ。
で、その見た目のために、家から出ることができなくなり。
最終的には頭部が破裂し亡くなったそうだ。
親以外誰も葬儀にさえ来てくれなかったらしい。というのも、「病ではなく呪いだった」という噂が流れたそうで。そのため、誰も、亡骸にさえ会いたくなかったのだそうだ。
◆終わり◆




