気に食わないというのならどうぞご自由に、婚約破棄でも何でもなさってください。
「あんた、ほんと祭りが好きだよな」
ある日のこと、一緒にいた婚約者ポイントネスがそんなことを言ってきた。
唐突な話題。
少しばかり戸惑ってしまう。
「ええ。まぁ……家庭環境かしら」
取り敢えずそう返しておく。
「女のくせに祭りが好きとか、かなり珍しいよな」
「そうかもしれないわね」
「なぁ、祭りから離れる気はないか?」
「それは恐らく無理だわ。だって……私の家は祭りに熱心なんだもの」
私たちが暮らす地域には祭りの文化がある。
他の地域と比べても熱量がまったく違っているのだ。
とはいえ、さすがに、どの家も熱心というわけではなくて。中には祭りにあまり興味がない家も存在している。が、私の家は、熱心な家だった。
「そうか。じゃあ婚約は破棄する」
でも、まさか、そんなことだけで婚約破棄されるなんて。
夢にも思わなかった。
でも――彼が祭りを良く思わないのなら、多分、私や私の家と深く付き合っていくのは無理だろう。
「ポイントネス、本気なの?」
「当たり前だろ」
「……そう。分かったわ。じゃあ受け入れる」
「ありがとな」
礼なんて言われても嬉しくない。
こんな形で感謝されても。
何一つ嬉しくはないし何とも言えない心境になるだけ。
「じゃあねポイントネス、さようなら」
私たちに結ばれる未来はなかった。
きっとそれが定めなのだろう。
でも、それでも、できるなら共にありたかった。
◆
あれから三年。
「あ~せいっせいっ、あ~どっせいっほぉ! あ~せいっせいっ、どっ、せい、ほら、しょ!」
婚約破棄直後から気晴らしのために祭りにより一層身を注ぐことにした私は、時を経て、今や名のしれた歌い手となっている。
「あ~にしき~、どっせいほらしょ! どっせいほらしょ! あ~はいはいはい! ほいそらどっせい、ほい! そら! どっ! せい!」
私はこれからも歌い続ける。
祭りのための特別な歌を。
そしてこの地域の祭り文化の力となるのだ。
「ああ~、せいほい! ああ! せい! ほい! どっせいほらしょらどっせいほらしょしょどっせいどっせいどっせいしょいしょいどっほらしょいしょしょどっせせしょいしょいほい……はい!!」
ちなみにポイントネスはというと、後に『祭り反対運動』を家族で始めた。しかしその活動に良い成果はなく。むしろ、その活動のせいで、ポイントネス一家は地域から追い出されることとなった。ポイントネス一家は散々近所の人や地域の人たちから虐められ、その後遠くへ引っ越していったのだ。
余計な騒ぎを起こさなければ参加せずとも何も言われなかったというのに……実に残念な人たちだ。
◆終わり◆




