私は花が好きです。婚約破棄されても、それでもなお、花を愛しています。
花は好きだ。
いつだって素直で、いつだって美しい。
そして、誰に対しても平等に、真っ直ぐにその華やかさを見せてくれる。
それとは逆に、人は、正直あまり好きでない。
裏と表がありすぎる。
表では良さげなことを言っていても裏では悪く言っていたりするので、わたしには少し難しい。
ただ、それでも、エリードとの婚約が決まった際には「彼と共に生きてゆけるよう頑張ろう」と思っていた。
婚約者に迷惑をかけたくない。
婚約してくれた人を傷つけるようなことはしたくない。
だから自分なりに努力しているつもりだった。
「お前とは気が合いそうにないな」
けれども私の努力は無駄だったようで。
これまで頑張ってきたけれど、成果として実りはしなかった。
「もういい、婚約は破棄する」
エリードと生涯を共にするものと思っていたので、それだけに、婚約破棄を告げられるなんてかなりの衝撃だった。
完璧ではなくとも、そこそこ上手くやれていると思っていた。
でもそれは勘違いだったようで。
実際には上手くなんてやれていなかったみたいだ。
「お前はいっつも花ばかり眺めてにやにやして気持ち悪いんだ」
「……すみません」
「謝罪はいい、どのみち共に行く未来などないのだから」
こうして私は終わりを告げられた。
◆
その後私は花を育てることに力を注ぐようになった。
というより、それしかなかったのだ。
婚約者に捨てられたという悲しみを掻き消すためには何かに全力で打ち込むしかなかった。
そんなある日、知人の紹介で花の品評会を見に行ってみたところ、審査員の青年と気が合った。そして彼との関係は一気に進み。気づけば婚約することとなった。未来を誓い合う仲になったのだ。
◆
あれから三年。
夫は今も品評会の審査員をしたり花関連の講演を行ったりという仕事をしている。
一方私は、結婚から一年ほどして誕生した第一子を世話しつつ、趣味程度に家周りで花を育てている。
そうそう、そういえば。
エリードはあの後山菜採りにはまったようだが、その時に毒のある花を食用のものと勘違いして口にしてしまい、数日全身の痛みに苦しんだ後に死亡したそうだ。
◆終わり◆




