婚約破棄を告げられた刹那驚きなことが発生しまして。~念のため言っておきますが、私は何もしていません!~
暖かな空気が世界を包み込み、数多の花が晴れやかに咲き乱れる、そんな季節のある日。私は婚約者アーデルベームスに「伝えたいことがある」と手紙で言われ、彼の家へ向かった。なるべく早く来てほしいとのことだったので、可能な限り最短の日程で彼のところへ行った。
「お待たせしました」
「遅いよ」
「すみません」
一応謝っておくが、不満はある。
これでも頑張って急いだのだ。自分がやりたかったことの予定も変え、少しでも早く彼のところへ行けるように努力した。なのに着くなり遅いとだけ言われたら、あまり良い気はしない。
「で、話だけど」
「はい。何でしょうか」
彼はひと呼吸空けて、述べる。
「君との婚約を破棄することにした」
刹那、彼の家の裏山が噴火した。
凄まじい音と揺れ。
窓も数枚一気に割れる。
「なっ……!?」
「何でしょう、これ……」
「取り敢えず逃げねば。では! そういうことだから!」
撤回はないのね。
だが構わない。
終わりでも良い。
石が飛んできて壁に当たる音がする中、私は彼と別れた。
◆
アーデルベームスとはあれで終わった。
私は裏山噴火による直接的な被害を受けることはなかった。いや、恐怖という意味では被害を受けたとも言えるのかもしれないが。彼の隣の家の人がシェルターに入れてくれたので、そこでしばらく耐えて、ある程度落ち着いてから家へ帰った。
親には心配させてしまったが……。
でも、無事であった。
一方、アーデルベームスはというと、裏山噴火の際に亡くなったそうだ。
あの時、彼は、わりとすぐに家から飛び出した。慌てていたからか、少しの防具もつけず建物の外へ出たのだ。で、飛んできた大きめの石に頭を貫かれ、その場で亡くなってしまったのである。
災害に巻き込まれたという意味では気の毒だとは思う。
で、私はというと、アーデルベームスのお隣さんの青年と結ばれた。
シェルター内で私が彼を励ましたことで、この関わりは始まった。
あれから数年が経った今では、正式な夫婦となっている。
アーデルベームスではなくアーデルベームスのお隣さんと結ばれることになるとは夢にも思わなかった。が、現実はそうなった。不思議なくらいスムーズに話が進んだし、私の心もそれを受け入れられた。これは定めだったのかもしれない、と、思うこともある。
なにはともあれ、幸せになれたので良かった。
◆終わり◆