婚約破棄、そして、私たちの道は真逆のものとなったのです。
「貴女との婚約ですが、破棄としますよ」
短い金髪の婚約者アインツがそう告げてきたのは、ある雨降りの日だった。
何ということのない平凡な日。
よくある雨の日。
でも彼の言葉がその日を平凡ではない日へと変えてしまった。
「そんな……本気、なのですか?」
「ええ」
彼はくふふと黒く笑う。
「貴女は私には相応しくないのです。なぜなら、良いのは顔だけだからですよ。我が妻となるのであれば、もっと中身を磨いてもらわねば。お話になりませんよ。なんせ貴女は、今のところ、中身という観点では女性の中でかなり低い存在ですからな」
酷い! と思うが、さすがに口から出すことはできない。
「ではこれにて、お別れとしましょうか」
「……残念です」
「そうですかな? こちらは嬉しいですよ。相応しくない女性を抱えているというのも考えもの、いちいち恥を掻きますし疲れてしまうのです」
雷鳴が轟く。
そして終わってゆく――私たち二人が共にあった時間が。
◆
あれから数年、私とアインツは真逆のような人生を歩むこととなった。
婚約破棄された直後に秘められた力があると判明した私は、王城へ連れていかれ、そこで改めて聖者に力について調べてもらうこととなった。で、その結果は良いものであり、私は正式にこの国の『聖女』であると認められることとなった。
それからはとても良かった。
衣食住に困ることはない。
すべて国が面倒を見てくれるから。
そして私がするのは国の平穏を祈ることだけ。
一方アインツはというと、超絶ギャンブル好きな伯父の借金をアインツの父親が被って返済しなくてはならないこととなったそうで、その結果家は急激に貧しくなったそうだ。
で、アインツ自身も、それまでのように優雅には暮らせず。
長時間労働低賃金でも働き続けるしかないということになってしまったようだ。
彼にはもう自由な時間はほとんどない。優雅に穏やかにお茶を飲むことすらできず。彼は一つの駒として消費されるだけ。
道具としてこき使われ、使い潰される――それだけの人生だ。
◆終わり◆




