春が好きでした。けれども婚約破棄されて嫌いになりました。しかしその後再び春を好きと言えるようになったのです。
穏やかな風が吹き抜け、多くの植物が芽吹く春。
私はその季節が好きだった。
その年の春までは、その日までは――。
「お前のような上品さの欠片もない女、妻になんてしたくない。お前なんかと共に生きるなど、俺のこれまでの努力を壊すも同然の行為だ。これまで悩みはした、だが、やはりどうしてもお前とやっていくのは無理だと思った」
婚約者ルイフィンはずらずらと文章を述べた後に。
「よって、婚約は破棄とする!!」
はっきりと言い放った。
私を見つめるルイフィンは私を愛してはいない。
いや、愛うんぬん以前の問題で。
ルイフィンは私に敵意すら持っているかのようだ。
「え……」
「聞こえなかったか? 婚約破棄、だ」
「えええ……」
「いい加減ちゃんと聞けよ!!」
「聞こえてはいます、ただ……驚いてしまって」
こうして、私とルイフィンの関係は終わった。
私は春が嫌いになった。
◆
もやもやしていた私は、親が持っている領地内にある邪魔な木を切り倒すことにした。
「せい! はぁ! とりゃあ!」
そこまで筋肉質ではない私だが、木を切ることは経験していた。似合わないかもしれないが。ただ、親と一緒に木を切り倒すことはよくあったし、付き添ってもらって自分で切り倒したこともあった。それゆえ、自力でも木を倒すことはできる。
「はい! はい! はい! はい! はぁぁぁ……どりゃあ!!」
婚約破棄されたストレスの発散も兼ねて一人木を切り倒していたところ、たまたまその様子を目にした男性から「素晴らしい! 何という技術力! 尊敬します!」と声をかけられた。
――で、後に、その男性と結婚することとなる。
◆
「今日も仕事良いですか?」
「ええいいわよ、行くわ」
「六十本です」
「そう……分かったわ。でも、貴方も一緒に来てくれる?」
「はい!」
今は夫と二人木を切る仕事をこなしている。
あの時は思わなかった。
こんな未来がやって来るなんて。
でも今、私は確かにここにあり、確かに夫と共に働いている。
こういう人生も……悪くはないかもしれない。
私と彼の結婚式は春だった。
一度は嫌いになった季節。
でも私は再び春が好きになって――今に至っている。
ちなみにルイフィンは、ある時庭の整備を頼んでいた人と口論になり大きなはさみで襲われたそうで、その際に負った傷が原因となり死亡したそうだ。
◆終わり◆




