婚約破棄されましたが、高位踊り子として活動した後に王子に見初められました。
誰かと婚約し、結婚し、夫婦として幸せに暮らす。
それが当たり前の人生なのだと思っていた頃もあった。
幼い頃からそう教えられてきたからだ。
まだ年を重ねていない純粋で愚かな子どもだったあの頃の私は、両親の言葉を真っ直ぐに信じ、その言葉がすべてでその言葉がこの世のすべてなのだと思い込んでいた。
誰だってそうだろう、幼い頃は親の言葉を疑わずそのまま信じるもの。
――でも、その言葉たちは、私には当てはまらないものだった。
「ルリア、お前、踊りを習っているそうだな」
婚約者ルベイズマンの表情は冷ややか。
今の彼は私のことを愛おしいとなんて欠片ほども思っていないような顔をしている。
「え? あ、はい。と言いましても、趣味程度ですが……」
「やはりか。では、婚約は破棄とする」
「えええーっ!?」
思わず出てしまった大声。
すぐに引っ込めた。
いや、でも、いきなり婚約破棄を出してくるなんて……。
まさかの展開だ。
「やはり品の欠片もない女だな」
「大声を、すみません」
「いい。どうせもう全部終わるのだから。では、そういうことで」
「ま、待ってください! 急過ぎますよ! それに、婚約破棄って……そんな勝手に決めて良いのですか?」
するとルベイズマンは「最高に不愉快」と言っているかのような目つきでこちらを睨む。
そして。
「去れ! 出てゆけ! 女ごときがくちごたえするな!」
彼は鋭く叫んだ。
私には居場所はなかった。
どうあがいても。
きっと彼と共には生きてゆけないのだろう。
◆
あれから六年ほどが経った。
一時高位踊り子となっていた私は、王子に見初められて、結婚した。
はじめは「王子の妻が踊り子なんて!」という意見もあった。けれども少しずつでも理解してもらえるよう努力を重ねて。その結果、段々だが良い感情を抱いてもらえるようになってきた。氷を溶かすように、民の心を溶かしていったのだ。私の日々の努力は無駄ではなかった。
ちなみにルベイズマンはというと――私の次に婚約した女性と二人で山近くの道を散歩していた際にうっかり池にはまってしまい、そこに住んでいたピラニア型魔物たちに食べられてしまったそうだ。
◆終わり◆




