婚約破棄された聖夜、精霊と共に生きることになりました。
今日は特別な日。
この日の夜は『聖夜』と呼ばれる。
だが、今年だけは、これまでのこの日とは違っていた。
「急になったのは悪いと思うが、君との婚約は破棄とすることにした」
婚約者フルルにそう告げられたのだ。
正直意外だった。
私としてはフルルとの関係は悪くないと認識していたから。
まさか彼に切り捨てられるとは……。
「そうですか。聖なる日に残念ですが、承知しました」
とはいえ今さら何を言っても無駄だろう。
彼と生きることは諦めるしかなさそうだ。
まぁ、彼がいなければ生きていけないわけではないので、そこまで深刻に受け取って気にすることもないのかもしれないが。
一礼し、彼の前から去る。
ちょっと悔しい。
でも仕方ない。
そうして迎えた夜、私はとある存在に出会った……。
◆
フルルに切り捨てられた夜、私は一体の不思議な存在に出会った。
それは人間に近いような形をしているのだが、好き放題に宙を動き回り、ほんのり光を放っている。
人間に近いのは身体の形のみ。
他の点に関しては人間らしい要素はあまりない。
ただし、言語は共通だ。
なんでも精霊の一種らしい。
「せいやにであえてうれしいよ」
「私も嬉しいですよ。ちょっと色々あってもやもやしていたので、出会いは支えです」
「これはきっとうんめいだとおもう」
私たちは友情を築き上げた。
まるで魂が惹かれあっているかのようだった。
「これからはぼくといっしょにくらそう」
「え、本気で言ってます?」
「きみをしあわせにできるとおもう」
「ええ……いきなりですね……」
その精霊といると心が柔らかくなる。婚約破棄された悲しさ悔しさなんてどこかへ流れていってしまいそうだ。精霊と隣り合っている、それだけで、自然と心が安らぐ。まるで魔法のよう。
「いやかな」
「……いえ、嫌ではありませんけど」
「ほんとうのことをいっていいよ」
「あなたのことは嫌いでないです」
精霊は私の回りを飛び回る。
「じゃあいっしょにいきたいな」
その言葉に、私は頷いた。
◆
あれから十年、私は現在も精霊と一緒にいる。
私たちは分かりあえている。
きっとこれからも穏やかに幸福に生きてゆけると思う。
ちなみにフルルはというと、あの後『精霊の呪い』なるものを受けてしまったらしい。
毎晩のように恐ろしい夢に襲われるようになってしまったとのことだ。で、寝不足になっていると、おかしな光の玉が飛び回り怪物が襲いかかってくるという幻覚を見てしまうようになってしまったそうだ。それからさらに少しすると幻聴にまで襲われるようになったらしくて、最終的には正気を失って二階の窓から身を投げてしまったそうだ。
◆終わり◆